『江戸の検屍官』

タイトルだけを見て買ったコミックである。「江戸」と「検屍」。目を引きつける十分な力を持ったタイトルである。「江戸時代にも検屍があったのか」と。例えば、『鬼平犯科帳』で検屍の場面は、ないよな。

遺体の解剖が許されない、化学分析の手段がない、といったハンデがありながらも、遺体の口ににぎりめしを入れた後に、そのにぎりめしを鶏に食べさせて、毒死か判断する。甘草や白梅や酒糟を使って、遺体に残された圧迫痕を浮かび上がらせる。などなど、さまざまな手段が用いられる。

江戸時代にこの作品に描かれたような検屍が実際に行われていたかは、分からないのだが、作品に登場する『無冤録述』は実在する。
『無冤録述』は画像データであるが、千葉大学附属図書館のサイトで読める。

このコミックは川田弥一郎の同名シリーズ小説のコミック化作品であり、原作をあわせて購入して読んだ。
原作ファンの方、ごめんなさい。コミックの方が面白かったです。
『江戸の検屍官』の主要キャラクターは、カタブツだが、職務熱心な江戸北町奉行所の同心、北沢彦太郎。艶福家の医師、玄界、女絵師のお月、の三人だが、原作は、キャラクターの描写が淡泊過ぎるきらいがある。、いきいきとキャラクターが動いているのはコミック版の方である。
犯人(下手人)の描写も、コミック版の方が丁寧だ。軽くネタバラシをすると原作とは犯人が異なる、という作品がある。しかしながら、犯人の動機、心情がうまく描写できている。

ことに3巻は、「玉の輿」を願う少女たちの嫉妬が、無惨な事件をひきおこす、という物語である。そのむごたらしさと鮮やかな対照をみせるのが、悪に染まって生きてきた女が示す、血のつながらない子への愛情である。


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