世界初の検屍書『中国人の死体観察学―「洗冤集録」の世界』


中国人の死体観察学―「洗冤集録」の世界

拙ブログに『江戸の検屍官』をキーワード検索して訪問される方が多い。2012年10月の検索ワードではナンバーワンだ。『江戸の検屍官』シリーズに当時の検屍マニュアルとして登場する『無冤録述』は、元代の『無冤録』の翻訳であり、宋人の宋慈が著した『洗冤集録』は、『無冤録』の源流となった世界最初の検屍書である。
『中国人の死体観察学』は、『洗冤集録』の翻訳であるが、翻訳にあたっては章立てを変更し、清代の補注本に載せられた事件例をおぎなっているので、現代日本人の私にとって大変読みやすいものになっている。

登場する殺人の手口も様々である。絞殺してから自縊死に見せかける、殺してから放火して焼死に見せかける、現代日本の2時間サスペンスドラマによく登場する(最近はないのかな?)手口が、宋代からあり、司法当局の知るところであった、というのは、興味深い。

もちろん、現代の目から見ればおかしな記述も目立つ。男の死体はうつ伏せ、女のそれは仰向けになる、とか、首を吊って一晩経過した者でも適切な措置を施せば蘇生するなど、それはないだろう、と言いたくなることも書いてある。
しかし、宋慈がタイトルに「冤(ぬれぎぬ)を洗(すすぐ)」という言葉を選んだのは、注意をひく。宋慈が書いた序文の以下の一節は、現在でも通じる価値を持つであろう。

すなわち、検屍は被告の生死の原点であり、冤罪に陥るか冤罪を雪ぐかの瀬戸際であり、検屍こそがそれを決定するものなのです。それゆえ、法を執行する者は、慎重のうえにも慎重を重ねなければなりません。
【追記】 宋慈を主人公にした推理ドラマがあることを知った。 http://gyao.yahoo.co.jp/player/00012/v12018/v1000000000000001209/ 『江戸の検屍官』もドラマ化すれば、面白いものになりそうなのにね。 関連記事 『江戸の検屍官』