日本軍の強制連行により慰安婦にされた女性がいるけれど、慰安婦が日本軍の暴力によって連行されたという事実を指すものではない、って何を言っているんだ?

id:syachiku1氏から、3度目の(!)トラックバックをいただいた。

>それでは、日本軍の暴力によって慰安婦にされた事例があることを認めるのだな。

何を訳の分からない事を言っているのか?仮にそのヤンという女性が強制連行された事が立証出来たとしても、それはヤンという女性が連行されたという事実を示すだけで、慰安婦が日本軍の暴力によって連行されたという事実を指すものではない。

「何を訳の分からない事を言っているのか?」と言いたいのは、私の方だ(笑)
 syachiku1氏が何を言いたいか、まるで理解できなかった。
ヤン・ラフ=オハーンが、日本軍に強制連行され、慰安婦にされた事実は、彼女が日本軍の暴力によって連行されたという事実を指すものではない、と言いたいのか。
 私の勝手な想像を加えて言うと、syachiku1氏は、日本軍が女性を強制連行し、従軍慰安婦にした事例を認めるが、全ての慰安婦が日本軍の暴力によって連行されたわけではない、と言いたいのかも知れない。
 私の勝手な想像が正しいのならば、私の書いてきた内容と食い違いはない。syachiku1氏は、「日本軍の暴力によって慰安婦にされた事例があることを認める」と言えばいいだけだ。
 まさか、日本軍の暴力によって慰安婦にされた事例まで、日本軍の犯罪性を否定するほど、syachiku1氏の人権感覚は狂ってはいないだろう。

慰安婦制度が人権侵害であると言うのが世界共通認識となったのは、第二次世界大戦時よりもかなり後の話である。当時はそれが犯罪であるという認識は一般的では無かったし、事実誰も裁かれていない。後から発達した価値観で日本を犯罪者扱いするのが不当だと言っているのだ。
勿論女性の人権が重要視されるような現代において、公娼制などを取り入れていれば非難の嵐だろう。しかし当時はそこまで人権意識が発達していなかったし、繰り返すが当時は現代程大々的に非難されてすらいなかった。慰安所及びそれに類する風俗産業は、当時世界中にあふれていた。

 まず驚くのが、「事実誰も裁かれていない。」って、スマラン事件で戦後裁かれた軍人たちは何なのだ。
 そして、出ました! 「現在の価値観で当時を批判するな」論法。この論法自体について、いずれ、稿を改めて論じたいが、今は当時の価値観について延べたい。
 
従軍慰安婦制度を特徴づける、強制労働と人身売買について、当時は問題なしとされていたのか。

 1925年までに日本は下の3条約に加入していた。

  1. 醜業を行わしむるための婦女売買取締に関する国際協定(1904年)
  2. 醜業を行わしむるための婦女売買禁止に関する国際条約(1910年)
  3. 婦人及児童の売買禁止に関する国際条約(1921年)

 これらの条約で未成年の場合は本人の承諾があっても、成人の場合は、詐欺や強制的な手段によって売春に従事させれば罰せられることになっていた。
 また、強制労働に関する条約(第二十九号)に日本は1932年に批准しているが、これは「処罰の脅威の下に強要」させられた労務を廃止することを義務づけたものだ。*1
 まさか、「犯罪であるという認識は一般的では無かった」行為を禁止する条約に加入することをどんな政府もしないだろう。
あと、国外に連れ出す目的の人身売買や売買された者を海外に連れ出すことは、戦前でも犯罪だ。
 公娼制に対する当時の批判については、下の記事が勉強になる。
公娼制度は国家公認の人身売買による奴隷制度:1910年代〜1930年代 - Transnational History
 当時、従軍慰安婦制度が何の問題もないものだ、と考えられていたのならば、慰安婦の募集も堂々とやっていそうなものだ。「銃後の婦女子の皆様、従軍慰安婦になって、皇軍兵士を勇気づけませう」みたいな宣伝を、偕行社や水交社あたりがしそうなものだが・・・

例えをだそう。パチンコにはまり借金を作った親が、返済の為に娘に水商売をさせたとする。娘にとっては不本意だろう。しかしこの場合、娘が恨むべき対象は何だろうか?売り飛ばした親だろうか?金を貸したサラ金か?借金を作るきっかけとなったパチンコ店か?

 借金の原因が、パチンコという設定に、そこはかとない悪意を感じるのだが、私の答えはこうだ。娘が恨むべき対象は、「親の借金をお前の体で返せ」「借金を返すまで、働け」と売春を強制する売春業者だ。だいたい、親の借金を返すために娘に売春をさせるという契約は無効だ。

*1:兵役・懲役などを除く。