『ひと目でわかる「慰安婦問題」の真実』

この本が、書店にないのは、「在日」や「反日日本人」の陰謀のせいらしい。
緊急拡散希望《『ひと目でわかる「慰安婦問題」の真実』が書店に無い原因が分かりました》

 いや、近くの書店にはあったぞ。『従軍慰安婦』(吉見義明)と並んでいたのは、なかなかシュールな光景ではあったが。
読んでみたのだが、なかなかすごいことが書いてあった。
水間氏は「醜業を行わしむるための婦女売買禁止に関する国際条約」に日本が加入していたことを指摘する。指摘した上で、法治国家であった日本が条約に反するような強制連行を行ったはずはないと述べるのだ。道路交通法があるから、信号無視する自動車はないだろう、みたいな逆立ちした論理だ。従軍慰安婦否認論によくある論法をまとめた記事を書いたが、
従軍慰安婦問題否認論記事を書くために大事なこと〜無論、皮肉です。 - davsの日記
さすがこれは思いつかなかった。
 水間氏は1872年に起きたマリア・ルス号事件を持ち出して、当時の日本が人権感覚の面で欧米に勝るとも劣らなかったと言う。(この事件の裁判で、日本の遊女が奴隷だと船長側の弁護人から指摘されたことには触れない)

 これに加えて、「斬新な」方法を持ち出す。戦前の朝鮮半島における女性拉致・誘拐事件の犯人として新聞で報じられているのが、全て朝鮮人だ、ということをあげて、従軍慰安婦問題を否認するのだ。
 ご丁寧に記事の画像が掲載されているが、どれも従軍慰安婦にされるために拉致・誘拐されたと書いていない。記事は、「純民間の」売春施設で働かさせるために拉致・誘拐された事件、と読めるものばかりだ。第一、軍の慰安所に違法な手段で女性が連れられてくるのを真面目に取り締まっていたのなら、軍の慰安所に連れて来られた時点で、業者の逮捕や女性の解放が多発していたはずだが、そういう記事はない。むしろ、慰安所が軍とは無縁の民間業者が経営する通常の売春施設だったのなら、警察の取り締まりを受けていたであろう慰安婦の募集が、軍が関与していたために犯罪行為でなくなった例が、ここで紹介されている。

 話を進めると、朝鮮半島とで日本軍や総督府の意を受けて慰安婦の募集にあたっていた業者が、たとえ、全て朝鮮人(水間氏は、定義なしでこの用語を使っているが、ここでは、朝鮮戸籍を持つ者と解釈しておく)だとしても、業者を利用し、業者の不法を黙認していた日本軍の責任がなくなるわけではない。「業者も、日本軍も悪い」としか言えない。
 水間氏が業者が朝鮮人かどうかこだわるのは、従軍慰安婦問題を、日本と外国(特に韓国)との「ウチ・ソト問題」としてとらえているからだろう。人権を踏みにじる側と、人権を踏みにじられる側の「上下問題」としてとらえたら、そのようなおかしな論は出てこないと思う。