『「相対的貧困率」による統計マジック』という記事が統計マジックに陥っている件
「相対的貧困率」による統計マジック - 開米のリアリスト思考室
開米瑞浩氏が書いた元記事では、「OECD24ヶ国で貧困率を計ると、日本はワースト5に入る、貧困層の多い国である」という理解は誤りとしている。
その根拠は
1. この主張の「貧困率」とは「相対的貧困率」のこと
2. 「相対的貧困率」は、中間層の厚い国では実態よりも高めに出る
3. 日本はその「中間層の厚い国」に該当するため、相対的貧困率が実際の貧困度を表さない
ということで、「相対的貧困率」は2,3の理由から貧困度の指標として使えないということを述べている。
1は事実であるので、争うことはないが、2及び3がおかしい。
高所得側の山は同じで、違うのはそれより下の部分です。
黒線で示したA国は、低所得側に大きな山がある、「大金持ち以外みんな貧乏」型。
赤線で示したB国は、真ん中あたりに山がある「総中流階級」型。
どちらの国が「所得格差が大きい」でしょうか。
明らかにA国のほうですね。これは一目見れば分かります。
では、相対的貧困率を計算するとどちらが高く出るでしょうか。
実はB国のほうなんです。
実際には格差の少ないB国のほうが「所得の中央値」が上がります。そうすると、「相対的貧困」とされるラインも高くなるため、相対的貧困とカウントされる割合が増えるわけです。
A国の中央値はそんなところにない。
検証のため、低所得側に大きな山がある、「大金持ち以外みんな貧乏」型と真ん中あたりに山がある「総中流階級」型の、仮想の所得分布を作成し(標本数は500、分布範囲は10から100)(図表2)、グラフにしてみた。(図表1)あまり線は滑らかではないが、開米氏のグラフが再現できた。結論から言うと、開米氏の力強い主張とは逆に、相対的貧困率が高いのは、低所得側に大きな山があるA国の方である。
確かにB国の方が、A国より所得の中央値および貧困線が、高所得側(グラフでは右側)にくるが、貧困線より所得が低い人間は、A国の方が多い。開米氏はA国の所得中央値を、A国の所得の最頻値あたりにおいているが、もっと高所得側(グラフでは右側)にあるはずである。
開米氏が、なぜこのような「状況把握」の間違いを犯したのか分からない。あるいは最頻値と中央値を混同したのかもしれない。
(図表1)
(図表2)
所得 | A | B |
10 | 45 | 4 |
15 | 55 | 9 |
20 | 50 | 12 |
25 | 48 | 15 |
30 | 42 | 20 |
35 | 38 | 30 |
40 | 30 | 33 |
45 | 18 | 38 |
50 | 16 | 40 |
55 | 14 | 42 |
60 | 13 | 40 |
65 | 12 | 38 |
70 | 11 | 36 |
75 | 10 | 33 |
80 | 11 | 22 |
85 | 16 | 17 |
90 | 22 | 22 |
95 | 24 | 24 |
100 | 25 | 25 |
中央値 | 35 | 60 |
平均値 | 43.45 | 59.22 |
貧困線 | 17.5 | 30.0 |
相対的貧困率 | 20.0% | 8.0% |
そもそも日本では
それでは、「日本はその「中間層の厚い国」に該当するため、相対的貧困率が実際の貧困度を表さない」という主張はどうなのか。平成25年 国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)のII 各種世帯の所得等の状況(PDF)に所得の分布状況が掲載されているが、日本の所得分布は、とても、「真ん中あたりに山がある」とは言えない。
平均所得金額以下の世帯が、60.8%に達する。ちなみに私がつくった仮想の所得データでは、平均所得金額以下の割合は、A国が61.6%、B国が48.6%である。