私がまともに表を作成できるようになった日 あるいはExcelに出会った日

 何につけ、他人が楽になるのを嫌がる人間というのはいるものだ。履歴書は手書きでないとだめだとか、無痛分娩は母性を損ねるとか、自分が好んで不便と苦痛を味わうならともかく、他人にそれを強制するというのはどういう趣味なのだろうか。
 
 私が最初に就職した職場で出会った上司もそうで、内部資料に使う各種の表を手書きで作成させるのだった。

 その頃、パソコンはまだ珍しかったが、部屋に1台はあったから、それで作表すれば労力を省けたはずだが、どういうものか彼は手書きで作成させるのだった。理由は一度聞いたことがあったが、覚えていないということは、腑に落ちない、大したことのない理由だったのだろう。私は不自由な片手で定規を押さえて、線を引こうとするがうまくいかず、時間はかかるし、表の出来栄えも惨憺たるもので、何度もやり直しを命じられ、冗談でなく、悔し泣きしたい気分を味わった。
 新人とは言え、無駄な労力と時間を空費させていたわけで、今から考えれば、よくそのようなことが許されていたのだろうか、と思う。

 その上司が異動すると、エクセルを使い始めた。
 最初にエクセルを操作したときの感動は、一生忘れないだろう。直感的に表が作れるし、オートサムの機能には驚いた。何よりも今まで10分かかっていた作業が、5秒で完了する。
 
 それ以来、苦労と苦痛を他人に要求する人間を見ると、軽蔑しか感じなくなった。