人民戦隊・党レッドの経済綱領に心引かれる〜『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』


ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』を読んだ。
1970年代から現在まで経済論争の潮流を概観しつつ、松尾匡氏が強調するのは、「リスク・決定・責任の一致が必要だ」ということと「予想は大事」ということだ。

前者は、リスクが一番あって、そのリスクにかかわる情報を一番持っている人が、決定し、その責任を引き受けるのが一番いいということだ。
例となるのは、漁業協同組合が漁業権を持って、漁師たちが自営する沿岸漁業の経営のかたちだ。
漁師たちが事故にあって死傷するリスクを背負っていて、しかも海の危険を熟知している。彼らが出漁するしないを決定し、利益や不利益を受けるという仕組みが理にかなっているということだ。これが資本を出資した資本家に決定権がある資本主義企業だったら、資本家が事故リスクを負わないから危険を無視して出漁を指示したりといった弊害が発生してしまう。

この部分を読んで、私が想起したのは、大阪市橋下徹市長のことだ。彼は政治家である自分は、選挙で落ちるリスクを背負っているから、独断していい、という趣旨のことを言う。しかし、選挙に落ちても「元大阪市長のタレント弁護士」として芸能界に復帰できると考えているのであれば、落選するのは大したリスクではないから、過剰なリスクをとるインセンティブが働くだろう。

このブログ記事のタイトルに話を進めると、本書のあとがきに、これから出現するかもしれない政党(名前はいうまでもなく、特撮モノのもじりだ)の経済綱領をデフォルメして載せているのだが、それが興味深い。「自由ライダー党」「人民戦隊・党レッド」「ウルトラの党」なのだが、そのまま紹介したい。漢数字は算用数字にあらためた。
私は人民戦隊・党レッドの経済綱領に心引かれるが、皆さんはどうだろう。

自由ライダー党

  • 規制のない自由闊達でイノベーティブな経済社会を目指します。あらゆる分野で例外なく自由なビジネス活動ができるようにして、雇用と成長を促進します。カジノ、麻薬取引、売春、ポルノ、臓器売買、安楽死も全て自由化します。
  • あなたの努力と財産を守るため、所得税法人税・一切の資産課税を廃止します。無駄な公共事業を大胆に削減し、行政のスリム化を推進します。
  • 最低限のベーシックインカムを導入し、様々な社会福祉サービスや公的年金制度は廃止して、これに一元化し。税金の無駄をなくします。最低賃金制度は廃止します。
  • 不況を防ぎ、なおかつあなたの財産をインフレから守るため、1%±0.5%のインフレ目標を維持します。
  • 自由貿易を推進し、国際競争力の妨げにならないよう、労働基準や環境基準を抑えます。
  • 人手不足にならないよう一定の失業を維持し、外国人労働力を導入、女性や高齢者の就業を促進します。

人民戦隊・党レッド

  • 転職や、協同組合などの起業や、再学習などがいつでも可能な、自由な人生を万人に保障するため、充実したベーシックインカムを導入します。
  • 福祉、医療、教育、子育て支援などの分野では、現場の利用者・従業者の自治に基づく協同組合などの活躍で、万人のニーズが満たされるよう、公財政で手厚くサポートします。
  • 失業ゼロを目指し、3%±1%のインフレ目標を約束します。不況のときは財政支出を通貨発行でまかない、インフレのときはお金持ちや大企業を中心に課税強化することでこの目標を実現します。最低賃金ベーシックインカムインフレ目標と整合するように引き上げます。
  • 暮らしと健康を守るため、労働基準や環境基準などのルールを厳しくし、世界的にも高い基準になるよう、世界中の人々の闘争を支援します。金融規制も世界的に統一して効果をあげることを目指し、国際通貨取引に課税するトービン税を実現します。途上国の人々がまっとうな労働条件で豊かになるために輸入自由化を進める一方、労働条件の悪い国には貿易制裁を課します。
  • 外国人労働者移入を自由化すると同時に、労働ダンピングにならないよう、賃金や労働条件を日本人と平等にするための労働支援と規制強化に努めます。

ウルトラの党

  • 貿易にも外国人観光客にも依存しない自立した国民経済を目指します。国内生産物と競合する輸入品すべてに高率の関税を課して、福祉や公共事業の財源にします。
  • 企業の海外進出を原則禁止の許可制にし、国益にかない、国内生産と競合しない場合に限り、現地であげた利潤から海外進出税を払う条件で認め、万一のときは自衛隊を派兵して保護します。外国企業の受け入れも外国人労働者の受け入れも禁止します。
  • 同胞の弱者には、本人の必要をきめ細やかに把握した十分な福祉供給を行い、不正受給は厳しく排除します。その判断の担当職や担当職自体の不正の監視のために十分な人員を確保します。
  • 不況のときには最も必要なところに財政支出を機動的につぎ込み、そうでないときには蛮勇をふるって財政再建を進めるために政治の強力なリーダーシップを確立します。