落下傘を撃つというのはどうなの〜もう4回目になったよ 『永遠の0』についての記事

『永遠の0』の映画版で、原作からカットされたエビソードとして、脱出中の米パイロットの落下傘を主人公宮部が、撃つというものがある。主人公のこんな反倫理的行為は、おそらくドラマ版でも描写されないと思うが、小説の中では、宮部は戦争はきれい事ではない、と要約できることを言い、その後、死んだと思われていた米軍パイロットが、生存していて、宮部のことを恨んでいない、と言うのだ。
 戦後、宮部の部下と件の米軍パイロットが対面して会話をする。

「彼に会いたかった」
「恨んでいないのか」
「なぜ恨む?」
「パラシュート降下しているあなたを撃ったのですよ」
「それは戦争だから当然だ。我々はまだ戦いの途中だった。彼は捕虜を撃ったのではない」

太平洋戦争当時には、「空戦に関する規則案」というものがあってだな。その第20条に航空機から落下傘で脱出中の乗員を攻撃してはならない、という主旨のことが書いてあるのだが。*1

Art. 20. In the event of an aircraft being disabled, the persons trying to escape by means of parachutes must not be attacked during their descent.

日本を含めた列国が署名した報告書にまとめられたものである。航空機が将来発展するだろうことを鑑みて、運用が制限されることをおそれから発効には至っていない。しょせん案ではないか、というかもしれないが、この種の戦時国際法というものは、それまで白と考えられていた行為を、成文化によって、黒にするものではなく、さすがにこれはひどいよな、と考えられている行為を禁止するものだ。宮部の行動は、当時の価値観からしても真っ黒なものだろう。百田氏は悪漢小説が書きたかったのだろうか。
 さらに「空戦に関する規則案」には、市民への無差別爆撃を禁止する条項もあるのだ。『永遠の0』には「米空母は我が国土を空襲し一般市民を無差別に銃爆撃した」と登場人物が批判する場面があるが、この批判の根拠も弱くなってしまうだろう。

関連記事

*1:現在では、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書の第42条に明文の規定がある。