「旧」の用法〜旧日本軍、旧ソ連

2015年4月23日朝日新聞天声人語」が「旧日本軍」という用語について述べていた。

記事を書くときに、使いたくない言葉というものがある。いまは亡きある先輩記者は「旧日本軍」という言葉を使わず「日本軍」と表していた。紙面では一般に、旧をつけた「旧日本軍の――」といった言葉がよく使われている▼戦中に少年だったその人は、「新しい日本軍はないのだから、旧もない。日本軍とは敗戦で解体されたあの組織だけだ」と言っていた。筋は通っている。自衛隊は軍とは違うという認識が根底にあった
新日本軍というものがないのだから、旧日本軍もない、というロジックは分かるのだが、日本語の「旧○○」は必ずしも、対応する「新○○」がなくてもよいのだ。 旧の用法を考えるに、以下の三つがあるだろう。
  1. 古いものであることを示す「旧」。例 旧住所、旧かなづかい
  2. 今は別のものになっていることを示す「旧」。「元」と言い換えができる。例 旧大蔵省、旧コザ市
  3. かつて存在したが、今はないものであることを強調するための「旧」
「旧日本軍」という用語は、新聞記事のデータベースを検索したところでは、映画『真空地帯』を紹介する1952年の読売新聞の記事だ。それ以前にも「旧日本軍艦」「旧日本軍人」ということばが出てくるが、これは2の用例だろう。1952年の記事は、警察予備隊や保安隊を新日本軍として、旧日本軍と表現しているわけでなく、かつて存在したが現在は存在しない日本軍と書いている。3の例として、「旧ソ連」や「旧ユーゴスラビア」がある。これも旧ソ連の諸国であれば、2の例だろうけれど、「旧ソ連の初代指導者レーニン」ともなれば、3だろう。(この表現を、私は2015年4月のNHKのニュース番組で聞いた)  面白いのは、あまりにも古いものには、3の「旧」を冠として付けられないことだ。「旧モンゴル帝国」なんて言わないし、「旧幕府」と言うのも、そのものずばりの雑誌があったが、21世紀の現在では、目にするのは歴史小説の中の台詞ぐらいだ。  旧日本軍に話を戻すと、「日本軍による戦争犯罪」と言ったときに、「それは古いほうの日本軍のことか、それとも新しいほうの日本軍のことか」という反応が返ってくるような世の中は嫌だろうな。