徴兵制はデマです、という記事がデマになっている件

以前紹介した長崎県立大村高等学校卒業生同窓会」のサイトに徴兵制はデマだという記事が載っていた。タイトルだけではよく分からないが、内容を読む限りは、徴兵制が導入されてもたいしたことにはならないと言いたいようだ。
【在校生向け】民主党が煽(あお)っている徴兵制はデマです。単純なウソにダマされないこと – 長崎県立大村高校卒業生同窓会
 細かいことではあるが、「民主党が煽っている徴兵制」というのでは、まるで民主党が徴兵制導入をもくろんでいるようなタイトルになってしまっている。

 記事本文にも驚くようなことが書いてある。

3.そこで、日本における徴兵制の歴史を調べてみました
(中略)
まず日本の徴兵制。
(1)明治6年/1873年 陸軍省発布:徴兵令
(2)昭和2年/1927年 公布:兵役法
この間、18年
(3)昭和20年/1945年

つまり、日本の建国以来2675年の歴史で、徴兵制は、18年(昭和2年/1927年〜昭和20年/1945年)だけなのです。
(中略)
日本の徴兵制は、大戦末期を除けば免役率が80%ありました。実は、私の実家では、曾祖父(ひい爺さん)も、祖父も徴兵検査を受けましたが、兵隊に行っていません。なぜでしょう?
それは、徴兵検査が済んでも、抽選で徴兵されていたからです。抽選には当たらず免除になっていました。免役率80%のほうになったからです。ただ、戦前は、抽選に当たらなかったほうが不名誉とされていたそうです。

日本の建国から2675年経過しているということ自体がデマだが、1873年の徴兵令を日本における徴兵制のスタートとせず、その徴兵令を全面改正した1927年の兵役法を起点にするのは全く理解できない。明治時代に徴兵制がはじまったというのは、小学校で習う知識だろう。というより、1873年の徴兵令を記載しておいて、無視するというのはなぜなのだろう。斬新な論理展開法なのだろうか。

 さらに「免役率が80%ありました」というのも、よく分からない。おそらく、徴兵検査の受験者のうち、現役徴集されなかった割合のことを言っているのだろうが、現役とならなくとも、ほとんどの者が補充兵役や国民兵役に服することになり、いつか「お鉢が回ってくる」可能性がある状態におかれる。
 『徴兵制』(大江 志乃夫)によると、この現役徴集率は20パーセントだったが、日中開戦後の1938年には40パーセントをこえ、翌39年には約50パーセントになった。(p.144)「大戦末期」どころか、日中戦争初期の段階で「免役率が80%」という状況ではなかった。

「ただ、戦前は、抽選に当たらなかったほうが不名誉とされていたそうです。」というのも、異なる。前述の『徴兵制』にはくじに当たらないようにという、徴兵よけ祈願のことや、あの手この手の徴兵逃れがあったことが記載されている。(富裕層などは、合法的に徴兵を免れたり、服役期間を短縮する手段があった)さらにはくじ自体も廃止された。
徴兵検査における抽籤制度の一考察
 元記事には、下記の記事へのリンクがはられているのだが、ここには金品と引き換えにした徴兵逃れのことが記載されいる。元記事の筆者はこれを読んでいないのだろうか。
http://tamutamu2011.kuronowish.com/tyoheisei.html

【追記】
 元記事に使われている民主党のビラの画像だが、誰かによって加工されている可能性が指摘されている。
現実の危機としての「徴兵制」|天使もトラバるを恐れるところ