知っていてもどうしようもない。

私も妻もいわゆるアラフォー(五入の方)で、結婚し、アラフォー(四捨の方)で子どもを設けた。互いに子どもは欲しかったが、それが遅れたのは、「子どもなんていつでも作ることができる」ど考えていたわけではなく、なかなか結婚相手が見つからなかったためである。高年齢になるにつれて、子どもを、という情報少子化対策で実現は難しいだろうが、一番効果的なのは配偶者を見つけることを支援することだと思う。

ネットで炎上 妊娠しやすい年齢の知識、教えちゃだめ? : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)
上の記事は、人間の生物学的限界を教えるだけでなく、出産育児について社会的条件を整備しなくてはならない、としているので異とするところではない。ただ例の副読本への見解は甘いとと思う。

ところが、このニュースがインターネットで配信されて大きな話題となり、その多くが批判的な意見であることに少なからず私は驚きました。文科省だけでなく少子化対策を担当する内閣府が連携したという点からか、「女性に早く産めと言っている」「20代前半が生殖能力のピークだと言われても、そんな時期に妊娠出産をする環境にない。このようなことを学校で教える前に早く産める環境を整備するのが先だ」というような意見がたくさん見られました。まず、実際の副読本を見ていただくと分かると思いますが、医学的な事実が書かれていて、別に「早く産みましょう」と早期の出産を促すようなことは書かれていません。また、現代社会の、雇用や収入が若いうちに安定しづらく結婚が遅れがちになることや、キャリア形成期と妊娠出産に医学的に適した時期が重なっている上に、産み育てながら働くのが職場環境的・保育のキャパシティ的に難しいこと、長時間勤務で夫が育児や家事に参加しづらいことといった晩婚化、晩産化の主な原因はもっともですが、それを整えるのは一朝一夕では難しいことだと思います。そちらを先に整備してから情報提供をするとなると、生殖能力について正しい情報を学校で教えてもらえる世代が後回しになってしまいます。情報提供と産める環境整備は同時進行すべきと思います。

確かに副読本の記述を「文字通り」読めば「早く産め」とは書いていない。しかし、日本で推奨されているコミュニケーション能力というのは、権力を持っているもの、多数派の言葉の行間を読んで、その意を迎えることだから、副読本の記述は、「早く産め」と言っていると解釈するのが正しいだろう。言葉を文字通り解釈する人間は、日本の学校や職場では排除の対象となる。

 もう一つ問題になるのは、高年齢になるにつれて、妊娠しにくくなる、という情報を知らない人間、かつ、知っていれば若いうちに出産をするという人間がどれほどいるのかということだ。

私も加わらせていただいた内閣府少子化対策有識者検討会議では、「年齢とともに子供を授かりづらくなるなんて知らなかった。知っていれば早く産んだのに」という方が少なからずおられるということで、子供を授かりたいと願う人が1人でも多くかなえられるようにするためには、どのように生殖に関する情報を提供していけばよいかということが何度も議題に上がりました。学校教育の場でそれが教えられるようになることはとても望ましいことだと思います(一方、すでに社会人になっている世代に広く情報を提供することは難しくなりますので、こちらも課題です)。

 医師をはじめとする権威者に、自分は何故、正しいとされる行動をとらなかったのか、を説明しなければならなかったとき、多くの人は、正しいとされる行動をとるために必要な知識を教えられていなかった、と釈明しがちな傾向を考慮する必要があるだろう。また、本当に年齢とともに子供を授かりづらくなることを知らなかった人間が、その知識を持ってさえいたら、早期に出産していたか、極めて疑問だ。「知っていたが、できなかった」という人が大半ではないだろうか。総じて言えば、今回の副読本は、少子化対策や出産育児支援には、役立たないだろう。その資源を他のことに使った方がよかった。