せめて歴史修正主義者の方々で意見を統一してほしい。〜『別冊正論26「南京」斬り』

『別冊正論26「南京」斬り』を読んでみた。南京事件についての歴史修正主義的な主張がこれでもか、とばかりに載せられている。バラエティに富んでいるといえるが、それぞれの記事に互いに矛盾した記述がある。
 例えば、南京事件否定論では定番とも言える「便衣兵問題」だが、これについて黒鉄ヒロシ氏、早坂隆氏は、以下のように、日本軍が民間人に変装した中国兵に攻撃されたと述べている。そして東中野修道は以下のように書いている。黒鉄ヒロシ氏、早坂隆氏
黒鉄ヒロシ

この数が、民間人に成り済まして懐ろに小火器などを隠した便衣(民服)兵となったら、市街地に於けるゲリラ戦が待ち受けている。事実、便衣兵の手榴弾などで日本兵が何度も襲撃されている。(p.17)

早坂隆氏

安全地帯に身を潜めながら、便衣兵たちは反撃の機会を窺った。庶民の中に紛れた彼らは、時に一転して日本軍に攻撃を加えてきた。(p.221)

一方、東中野修道氏は、軍服を脱いで私服を着ていた中国兵は、敵対攻撃を行うことを目的に民間人を装った「私服狙撃隊」ではなかったとする。ここから、東中野修道氏は、だから、「便衣姿の兵士」を裁判なしに殺してもよかったのだ、といった論を展開する。私も、東中野修道氏の主張を紹介しているが、まるで理解できない。この東中野修道氏の論理については、以下のサイトに詳しい。
http://www.geocities.jp/yu77799/nankin/saigen8.html
http://www.geocities.jp/yu77799/nankin/saigen9.html

南京で捕らえられた中国兵のなかに「便衣隊」つまり私服狙撃隊がいたであろうか。南京の安全地帯には軍服を脱ぎ私服で市民になりすました正規兵、つまり「便衣姿の兵士」はいたが、「私服狙撃者」としての「便衣隊」がいたとは寡聞にして知らない。(p.61)

 前の二者と同じく、東中野修道氏も捕虜や敗残兵の殺害を正当化しようとしているが、主張の根拠となる「事実」が互いに矛盾している。

 他にも、南京事件は1970年代に日本で話題になった後に、中国が問題としだした、という主張があるかと思えば、1938年に中国が国際連盟で問題を提起していたという記述もある。南京事件はファンタジーと断じている文もあれば、捕虜・敗残兵・便衣兵は、それぞれ捕らえた部隊が射殺・刺殺などにより処断したと書いてあるものもある。
 この『別冊正論26「南京」斬り』を読んでみても、1937年12月の南京で何があったか、理解できるものではない。歴史修正主義は自分の神話に都合の悪い歴史的事実を否定したいという欲望に奉仕するものだから、仕方ないのかも知れない。