区域外での政治的行為 橋下市長の二重基準

橋下徹大阪市長が、維新が主宰する政治塾に国家公務員や地方公務員が参加していることについて、その二重基準ぶりを批判されたことに対して、ご本人がツィッターで反論した。

まず大阪市の条例は、地方公務員への政治活動規制だが、規制されるのは当該勤務場所の役所が所管する行政エリアだ。地方公務員は自分の勤務する役所が所管する行政エリア内のみで規制を受ける。維新政治塾は大阪市内で行っている。勤務する役所の所管エリア外での政治活動は規制されない。

まるで、大阪市職員が、大阪市以外でなら自由に政治的行為をすることを認めているような口ぶりであるが、どうなのか。
大阪市webサイトから条文をダウンロードしてみた。この条例は第5条までしかない条例なので、全文を引用する*1が、ごらんの通り、区域外で行う政治的行為は除く、といった明文の適用除外規定はない。第3条を裏から読めば、区域外での政治的行為は、全面的に禁止されていないと解釈できるのだろうけど、この条項は、区域外での政治的行為を可能な限り、規制しようという意図の条項であるから、橋下市長は、大阪市職員が大阪市の外で政治的行為をすることを規制したかったのだろう。


職員の政治的行為の制限に関する条例
制 定 平24.7.30 条例78

(目的)
第1条 この条例は、本市において公務員に求められる政治的中立性を揺るがす事象が生じていることにかんがみ、職員に対して制限する政治的行為を定めるとともに、職員の政治的行為の制限に関し必要な事項を定めることにより、職員の政治的中立性を保障し、本市の行政の公正な運営を確保し、もって市民から信頼される市政を実現することを目的とする。

(政治的行為の制限)
第2条 職員(地方公務員法(昭和25年法律第261号。以下「法」という。)第36条の規定の適用を受ける職員に限る。以下同じ。)は、同条第1項、第2項(同項第1号から第4号までに係る部分に限る。)及び第3項の規定により禁止し、又は制限される政治的行為をしてはならず、並びに政治的目的(特定の政党その他の政治的団体若しくは特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、若しくはこれに反対する目的又は公の選挙若しくは投票において特定の人若しくは事件を支持し、若しくはこれに反対する目的をいう。以下同じ。)をもって、同条第2項第5号の条例で定める政治的行為として次に掲げる政治的行為をしてはならない。
一 職名、職権又はその他の公私の影響力を利用すること
二 賦課金、寄附金、会費又はその他の金品を国家公務員又は本市の公務員に与え、又は支払うこと
三 政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、配布し、又はこれらの行為を援助すること
四 多数の人の行進その他の示威運動を企画し、組織し、若しくは指導し、又はこれらの行為を援助すること
五 集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること
六 政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し、若しくは配布し、若しくは多数の人に対して朗読し、若しくは聴取させ、又はこれらの用に供するために著作し、若しくは編集すること
七 政治的目的を有する演劇を演出し、若しくは主宰し、又はこれらの行為を援助すること
八 政治上の主義主張又は政党その他の政治的団体の表示に用いられる旗、腕章、記章、えり章、服飾その他これらに類するものを製作し、又は配布すること
九 勤務時間中において、前号に掲げるものを着用し、又は表示すること
十 何らの名義又は形式をもってするを問わず、前各号の禁止又は制限を免れる行為をすること

(本市の区域外から行う政治的行為)
第3条 職員が法第36条第2項第1号から第3号まで及び前条各号に掲げる政治的行為を、電話をかけ、又はファクシミリ装置を用いて送信する方法その他の方法により、本市の区域(当該職員が区に勤務する者であるときは、当該区の所管区域。以下同じ。)外から本市の区域内にあてて行った場合は、当該政治的行為は本市の区域内において行われたものとみなす。

(懲戒処分等)
第4条 任命権者は、職員が法第36条第1項から第3項までの規定に違反して政治的行為を行った場合は、「地方公務員の政治的行為に関する質問主意書」に対する国会法(昭和22年法律第79号)第75条第2項の規定による内閣の答弁(内閣衆質180第288号。)において、法は、職員の政治的行為の制限の違反に対しては、懲戒処分により地方公務員たる地位から排除することをもって足るとの見地から、地方公務員の政治的行為の制限については罰則を付すべきでないとの趣旨であるとの見解が示されたことを踏まえ、法第29条に基づき、当該職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができるものとする。
2 任命権者は、教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)第2条第1項に規定する教育公務員が同法第18条第1項の規定によりその例によることとされる国家公務員法(昭和22年法律第120号)第102条第1項の規定に違反して政治的行為を行った場合は、法第29条に基づき、当該教育公務員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができるものとする。

(施行の細目)
第5条 この条例の施行に関し必要な事項は、任命権者が定める。

附 則
この条例は、平成24年8月1日から施行する。

条例の第4条第1項に唐突にあらわれる*2、「地方公務員の政治的行為に関する質問主意書」に対する内閣の答弁では、「条例で区域等の外における職員の政治的行為の制限を設けることは、法律に違反し、許容されない」とされている。


http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/180288.htm 地方公務員法第三十六条は、職員がその属する地方公共団体の区域等(以下「区域等」という。)の外において政治的行為を行うことについては一部の政治的行為を除いて制限していないところ、これは、国会審議において、区域等の内外を問わず職員の政治的行為を制限するとしていた政府提出の同法案が「多少行過ぎ」である等との見地から修正されたものである。かかる経緯を踏まえれば、同条は区域等の外における職員の政治的行為の制限は設けるべきでないとの趣旨であると解され、条例で区域等の外における職員の政治的行為の制限を設けることは、法律に違反し、許容されないと考えられる。

橋下市長としては、区域外での政治的行為も制限したかったのであろうが、国が地方公務員法の解釈上、それはできないと見解を示した。こ橋下市長の立場からすれば、区域外での政治的行為が全面的に禁止できないのは、いわば抜け穴であろう。それを自らを正当化する材料に使うのだから、こっけいである。

地方公務員の区域外での政治的行為を認めているのは、地方公務員法である。橋下市長が反論したいのなら、根拠とすべきなのは、自分の肝いりで作った条例ではなく、地方公務員法第36条を根拠にすべきである。さらに同条の第5項の規定も認識しておいてほしいものである。


(政治的行為の制限)
第三十六条  職員は、政党その他の政治的団体の結成に関与し、若しくはこれらの団体の役員となつてはならず、又はこれらの団体の構成員となるように、若しくはならないように勧誘運動をしてはならない。 2  職員は、特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、次に掲げる政治的行為をしてはならない。ただし、当該職員の属する地方公共団体の区域(当該職員が都道府県の支庁若しくは地方事務所又は地方自治法第二百五十二条の十九第一項 の指定都市の区に勤務する者であるときは、当該支庁若しくは地方事務所又は区の所管区域)外において、第一号から第三号まで及び第五号に掲げる政治的行為をすることができる。
一  公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること。
二  署名運動を企画し、又は主宰する等これに積極的に関与すること。
三  寄附金その他の金品の募集に関与すること。
四  文書又は図画を地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎(特定地方独立行政法人にあつては、事務所。以下この号において同じ。)、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。
五  前各号に定めるものを除く外、条例で定める政治的行為
3  何人も前二項に規定する政治的行為を行うよう職員に求め、職員をそそのかし、若しくはあおつてはならず、又は職員が前二項に規定する政治的行為をなし、若しくはなさないことに対する代償若しくは報復として、任用、職務、給与その他職員の地位に関してなんらかの利益若しくは不利益を与え、与えようと企て、若しくは約束してはならない。
4  職員は、前項に規定する違法な行為に応じなかつたことの故をもつて不利益な取扱を受けることはない。
5  本条の規定は、職員の政治的中立性を保障することにより、地方公共団体の行政及び特定地方独立行政法人の業務の公正な運営を確保するとともに職員の利益を保護することを目的とするものであるという趣旨において解釈され、及び運用されなければならない。

*1:後ろに引用する地方公務員法にあわせるため、号番号を漢数字にあらためた

*2:国へのうらみごとみたいだ