池田信夫氏、他人を「当たり屋」よばわり〜 バニラ・エア問題で逆張りの本領発揮

池田信夫氏は、ユナイテッド航空の機内から乗客が引きずり出された事件で、ユナイテッド航空を擁護していました。
【追記あり】オーバーブッキングは合理的である – アゴラ

したがって、バニラ・エアの事件でも、告発者の側を論難するだろうと思っていましたら、案の定、下のような記事を書いていました。
「バリアフリー」のインフレに歯止めをかけよう – アゴラ
それにしても、"「バリアフリー」のインフレに歯止めをかけよう"とは、ずいぶんな言い種ですし、記事の中身もひどいものです。

池田氏乙武 洋匡氏の記事にある以下の主張を引用の上で、批判しています。

バニラ・エアは合理的配慮の範囲内であるストレッチャーさえ用意していなかったのだ。これは、明らかに障害者差別解消法に反する状況だったと言える。

池田信夫氏の主張では、このストレッチャーは、合理的配慮の範囲をこえているものということになります。彼は以下のように書いています。

(前略)ストレッチャーを用意することが「合理的な配慮」にあたるというのは乙武さんの解釈にすぎない。合理的か否かの基準は、法令で義務づけられているかどうかで客観的に決めるべきだ。
バリアフリー法では、客席数が60以上の航空機における機内用車椅子の設置が義務づけられているが、乗降の際のストレッチャーなどの設置義務はない。空港にも車椅子に対応する設備が義務づけられているが、これは航空会社の義務ではない。したがってバニラ・エアがストレッチャーを用意しなかったことは違法ではない。バリアフリー法では、客席数が60以上の航空機における機内用車椅子の設置が義務づけられているが、乗降の際のストレッチャーなどの設置義務はない。空港にも車椅子に対応する設備が義務づけられているが、これは航空会社の義務ではない。したがってバニラ・エアがストレッチャーを用意しなかったことは違法ではない。

 どうやら、池田氏は、障害者差別解消法の合理的配慮というものは、他の法令で義務づけられている範囲内のことだ、という奇怪な解釈をしているようです。今回の例では、「バリアフリー法」(一体、何の法律でしょうか。高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律のことでしょうか。)で、航空会社にストレッチャーの設置義務が定められていないから、ストレッチャーの設置は、障害者差別解消法の合理的配慮ではない、ということのようです。他の法令で義務づけられていることだけをやっておればいいのであれば、そもそも障害者差別解消法が不要になるのでは、という当然の疑問は、池田氏の頭にはないようです。

肢体不自由 合理的配慮等具体例データ集(合理的配慮サーチ):障害者制度改革担当室 - 内閣府
 上は、肢体不自由者に対する合理的配慮の例だが、「高い所に陳列された商品を取って渡す」など、他の法令で義務づけられているなど聞いたことがありません。池田氏は、これは合理的な配慮にあたらないと主張されるのかもしれません。

 乙武 洋匡氏の記事に戻ると、彼はストレッチャーを用意することが合理的な配慮の範囲内であることについて、根拠を示しています。池田氏が引用した部分を、その前の部分を含めて、再び引用してみましょう。

実際にバニラ・エアは木島さんとのトラブルから二週間以内にストレッチャーを導入していることを考えれば、予算的にも、手続き的にも、そう準備に負担がかかるものではないことが窺える。つまり、バニラ・エアは合理的配慮の範囲内であるストレッチャーさえ用意していなかったのだ。これは、明らかに障害者差別解消法に反する状況だったと言える。

乙武氏は、バニラ・エアは問題が起きてから、すぐにストレッチャーを導入した。それは実施に伴う負担が過重でなかったということだ、したがって、ストレッチャーを用意することが合理的な配慮の範囲内だった、と主張しているわけです。池田氏は、乙武氏の主張の根拠となる部分を、どういうわけか削除の上、引用して、自らの主張につなげています。
 後半にすすむと、池田氏の論はさらにひどくなります。

 彼のような「当たり屋」が騒ぎを起こすと、バニラ・エアのようなLCCも障害者用の設備や人員を用意しなければならない。外資系航空会社OBによると、そういう機材を1台チャーターするのには1万円ぐらいかかる。バニラ・エア関空奄美便の料金は4780円である。これでは「格安航空会社」は成り立たない。

 バニラ・エアが導入したアシストストレッチャーがどの機種かは不明ですが、ミドリ安全のページには、138,000円(税別)のものが掲載されています。いつの間にか、「1台チャーターするのには1万円ぐらいかかる。」機材の話にすりかわっています。いずれにしても、障害者を排除しなければ成り立たないビジネスが、成り立つ必要はないと、私は考えます。

 池田氏の記事で一番ひどいのが、結論部分です。

乙武さんも銀座のレストランを名指しで批判した事件を謝罪しているが、こういう当たり屋が来たら、全国の階段で上がるレストランがアウトだ。車椅子用エレベーターをつけるコストは、他の客が負担する。これは「ゼロリスク」と同じく、少数派が多数派にただ乗りするモラル・ハザードである。
こういう場合に大事なのは、「合理的な配慮」などの基準を法令で明確に決めることだ。それを「思いやりがないのは違法だ」というように拡大解釈すると、日本中に無駄な障害者用設備があふれ、そのコストは利用者や納税者が負担することになる。

 バリアを放置して、コストを抑え、安価なサービスを提供するビジネスモデルの方が、少数派の犠牲に多数派がただ乗りしているいうべきでしょう。さらには、まるで障害者は利用者や納税者ではないかのような物言いは、やめていただきたいものです。