ネトウヨVSネトウヨ

今回は小説仕立てでいきます。

同じゼミに所属しているオサミチとミオが、さんさんと陽光の降り注ぐカフェテリアをまっすぐ横断して、こちらにやってくるのが見えた。僕は好物のカツレツを食べていたのだが、食欲が半減したのを自覚した。たったふたりしかいないゼミ仲間相手にこれはひどいと、あなたは思うだろうか。いや、僕がこれから書くことを読んでもらえれば、僕の気持ちを理解してもらえるかも知れない。
 二人は僕の前の席につくなり、こう言い出した。
「ジュン。俺さあ、スゴイ真実を見つけてしまったんだよ」
「そうそう私も、スゴイ真実を見つけてしまったの」
 「スゴイ真実」。オサミチとミオが、そう言い出したら要注意だ。黄色信号だ。彼らが「真実」を見つけてくるのは、図書館や公文書館に埋もれていた未発見資料ではなく・・・
「もしかして、ネットで読んだってこと?」
「そうそう、ジュン。お前相変わらず察しがいいな」
 察しがいいって、何度も何度も経験していたら、誰でも分かるぞ。この前も、「コミンテルンの陰謀で、日本は戦争に追い込まれた。ルーズベルトチャーチルも世界の共産化をめざすコミンテルンに操られていた」なんて話をネットから見つけてきて、二人で得々と話してくれたからな。しかし、英米の首脳がコミンテルンに操られていたら、とうの昔に世界は共産化していたはずなんだが。ベルリンの壁の崩壊って本当にあったよね。
 つまり二人とも、「ネットDE真実」の人間ということなのだ。
「今回は南京事件のことなんだけれどさ」
「偶然ね。私もそうなの」
 という事は、二人の話は今回は別のネタか。
「中国ってプロパガンダがすごい国だろ」
 日本語が少しおかしいような気がするが、言いたいことは分かる。
南京事件が本当にあったら、当時から宣伝していたはずなんだ。だけれど、当時は何も言っていないんだ」
 いや言っていたはずだ。蒋介石も語っていたし、国際連盟で中国代表が南京での残虐行為非難の演説を行なっていたはずだ。
「私のは少し違うの」
 今度はミオだ。
南京虐殺を宣伝していた宣教師や外国人記者は、国民党のエージェントで、彼らの報告や何かは国民党のプロパガンダなの! だから南京虐殺はなかったの」
 僕もさすがに、彼らの話に反論したくなった。
「ちょっと待ってくれ。オサミチの話が正しいのなら、中国は南京事件について宣伝していなかった。ミオの話が正しいのなら、中国は南京事件について宣伝していた。ふたつとも正しいことはあり得ない」
 いや二人とも間違っていると思うが、少なくとも二人とも正しいことはあり得ない。ふたりは顔を見合わせた。
「確かに矛盾しているな。俺は、自民党の国会議員の人がネットにそう書いてあるのを読んだんだけれど」
「ええーっ、そうなの。私も自民党の国会議員の人が書いてあるのを読んだの。あなたが参考にした意見を書いた人って、反日勢力に操られているのかも知れない」
「なんで、そう決めつけるんだ。ミオの言っている国会議員の人って誰?」
「そう言うオサミチは、誰の書き込みを見たのよ?」
山田宏一 自由民主党 参議院議員
「私も山田宏一 自由民主党 参議院議員
「「ええっ!?」」