【訂正あり】ああ、秦郁彦氏も、とうとう池田信夫氏の第2法則の犠牲に

お詫びと訂正

コメントで秦郁彦氏は、『南京事件』の増補版で南京事件の犠牲者数は四万にが上限だと言っている旨の指摘があった。見落としていた増補版の方を確認したところ、以下のように秦氏は、増補の部分でかつての犠牲者数の推計を下方修正していた。

この二〇年、事情変更をもたらすような新資料は出現せず、今後もなさそうだと見きわめがついたので、あらためて四万の概数は最高限であること、実数はそれをかなり下回るであろうことを付言しておきたい。(pp317-318)

従って池田信夫氏の、秦郁彦氏の南京事件の犠牲者数についての発言は正しいわけで、この点について、お詫びするとともに訂正します。


池田信夫氏が南京事件について記事を書いている。
南京事件は「大虐殺」だったのか – アゴラ

特に問題なのは南京軍事裁判の判決で、「被害者総数は三〇万人以上に達する」と書かれている。これが中国政府の公式見解だが、当時の南京市の人口が20〜25万人だったと推定されることからも、明らかに過大な数字で、秦郁彦氏は「最大限で4万人」と推定している。

秦郁彦氏の『南京事件―「虐殺」の構造 (中公新書)』について、池田信夫氏は、以前言及しているが、ここでも

犠牲者数の推定はさまざまだが、著者の推定は「最大限で4万人」である。

 秦氏が虐殺犠牲者と推定している数は「3.8〜4.2万」であって、「最大限で4万人」でない。秦郁彦氏の犠牲者数の推計については、以下でも問題点を指摘されているが、
秦郁彦氏による犠牲者数推計値の問題点について - 誰かの妄想・はてなブログ版
池田信夫氏がもっともらしく引用する高名な学者の著書は、確かに存在するが、その中には池田氏の議論を根拠づけるような記述は存在しない蓋然性が高い。」という池田信夫氏の第2法則の標的になるのはさすがに気の毒である。

虐殺という言葉は兵士が戦うときには使わないので、民間人を殺したという意味だろうが、4万人を「大虐殺」と呼ぶかどうかは主観的な問題だ。

 秦氏の虐殺犠牲者には、捕らわれた後に殺された兵士も含んでいるので、この一文にも池田信夫氏の第2法則が作用しているというべきだろうが、兵士は、虐殺の犠牲者に数えない、という池田氏の考えを進めると、広島の原爆投下による死者も、3万人以上とも推定される*1軍人・軍属の死者は、別に勘定しないといけないということになる。また、4万人という犠牲者の推計は問題があるが、それ自体は小さくない数だ。太平洋戦争末期の日本本土空襲でも、一度の空襲で4万人をこえる死者が出たのは、2度の原子爆弾投下を除けば、1945年3月10日の東京大空襲だけだ。だから、大したことはないとは言えないのと同じで、30万人を4万人に割り引くことにどれほど意味があるのだろうか。