ユネスコ記憶遺産の「真正性」についての基準

「南京事件」の世界記憶遺産登録 日本政府がユネスコに抗議へ - ライブドアニュース

中国が申請した文書には、犠牲者の数を「30万人以上」と記した中国での裁判文書も含まれている。日本の外務省は「文書は完全性や真正性に問題があることは明らかだ」として、今後、ユネスコの記憶遺産事業が政治利用されることが無いよう制度改革を求めていく考え。

外務省の主張は

  1. 中国が申請した文書には、犠牲者の数を「30万人以上」と記した中国での裁判文書も含まれている。
  2. 南京事件の犠牲者の数が30万人以上というのは誤りだ。
  3. よって、中国が申請した文書は真正性を欠いているから、ユネスコの世界記憶遺産となるのはおかしい。

という理路のようである。

一方、文部科学省のウェブサイトでは、ユネスコ記憶遺産選定基準のうち真正性については、以下のように解説している。
ユネスコ記憶遺産(Memory of the World: MoW)事業のユネスコにおける選定基準:文部科学省

記憶遺産の本質や出所(複写、模写、偽造品でないか)の確認。

 作製年代や作製者等の由来を偽った偽書の類を排除する基準のようだ。意図的な虚偽はともかく、内容に作製者の意図しない誤りも含まれていないことを要求する基準とは解釈できない。ましてや、犠牲者の数が確定していないのだ。
 そもそも、内容にまで厳密な真正性を求めるなら、グーテンベルク聖書は記憶遺産として登録できないし、今回登録されたシベリア抑留資料も、手記の中には、事実誤認も含まれているだろうから、真正性に問題がある、ということになってしまう。
毎日新聞の記事によると記憶遺産に登録された「南京大虐殺に関する資料」は以下ということである。

<1>国際安全区の金陵女子文理学院の宿舎管理員、程瑞芳の日記 <2>米国人のジョン・マギー牧師の16ミリ撮影機とそのオリジナルフィルム <3>南京市民の羅瑾が死の危険を冒して保存した、旧日本軍撮影の民間人虐殺や女性へのいたずら、強姦(ごうかん)の写真16枚 <4>中国人、呉旋が南京臨時(政府)参議院宛てに送った旧日本軍の暴行写真 <5>南京軍事法廷が日本軍の戦犯・谷寿夫に下した判決文の正本 <6>南京軍事法廷での米国人、ベイツの証言 <7>南京大虐殺の生存者、陸李秀英の証言 <8>南京市臨時(政府)参議院南京大虐殺案件における敵の犯罪行為調査委員会の調査表 <9>南京軍事法廷が調査した犯罪の証拠 <10>南京大虐殺の案件に対する市民の上申書 <11>外国人日記「南京占領−目撃者の記述」(新華社通信から)

 南京事件関連資料の記憶遺産登録に異を唱えるなら、これらの資料が、後世にでっちあげられたものだ、と主張すればよいのだが、聞こえてくるのは30万人という犠牲者数が多すぎるというものばかりだ。しかも、日本側の考える犠牲者数を根拠を示して述べているわけではない。今回の南京事件関連資料の記憶遺産登録のどこに問題があると日本側が考えているかすらわからず、中国やユネスコが、日本側の抗議をまじめに聞こうにも、どうすればいいかわからず、困ってしまうだろう。