自衛隊員は捕虜になれない? 戦闘員資格を巡るトンデモ説

小川和久氏『自衛隊を日本の軍隊として改組しないと国際法規に基づいた捕虜の権利を主張できない』(http://togetter.com/li/433011

「日本の軍隊」だと正式に定め、世界に周知しておくことで、例えば国連平和時活動で自衛官武装勢力に拘束されたりした時、国際法規に基づく捕虜の権利を主張できるようになるなどが考えられます。適切な名前であればよい。

軍事アナリストの小川和久氏が、自衛隊国防軍へと改組する理由として、敵側から捕虜として扱ってもらえるため、というものを挙げている。つまりは、「自衛隊」という名称では、敵の支配下におちいった自衛隊員が、「非合法戦闘員」として、虐待を受けたり殺害されるおそれがある、と言っているわけだ。軍隊であれば、国際法規による保護を受けることができるというわけだ。

それでは国際法規ではどうなっているか。「千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書Ⅰ)」*1では、「紛争当事者の軍隊の構成員(第三条約第三十三条に規定する衛生要員及び宗教要員を除く。)は、戦闘員であり、すなわち、敵対行為に直接参加する権利を有する。」(第43条第2項)としている。そして戦闘員が、敵の権力内に陥ったものは、捕虜となるわけだ。それでは軍隊とは何か? 第43条第1項に定義されている。

第43条 軍隊
1 紛争当事者の軍隊は、部下の行動について当該紛争当事者に対して責任を負う司令部の下にある組織され及び武装したすべての兵力、集団及び部隊から成る(当該紛争当事者を代表する政府又は当局が敵対する紛争当事者によって承認されているか否 かを問わない。)。このような軍隊は、内部規律に関する制度、特に武力紛争の際に適用される国際法の諸規則を遵守させる内部規律に関する制度に従う。
自衛隊は、まさしく、この条文にあるような組織である。違うのだろうか? 第47条では傭兵は、「戦闘員である権利又は捕虜となる権利を有しない。」とあるけれど、まさか小川和久氏は、自衛隊は傭兵の集団であると主張するわけではあるまい。 たとえば米兵と自衛隊員を捕らえたとき、武装勢力が、米軍は軍隊だから米兵は捕虜として扱う。自衛隊は軍隊でないから「非合法戦闘員」として処刑する、といった判断をするとは考えにくい。自衛隊員だけを虐待するということが起こるとすれば、それは日本や自衛隊(あるいは、当該の自衛隊員個人)に対する考え、感情が原因であり、日本国内の法規のあれやこれの文言によるものではないだろう。 まさかと思うが、自衛隊ではジュネーブ条約をはじめとする国際法規を隊員に教えていない、とかはないだろう。自分の身を守るという意味もあるし、「こいつら、制服を着ていないから処刑」なんてことをやられたら、とんでもないことになる。 さらに、議定書を読む限り、列強から「非合法戦闘員」とされているゲリラ、テロリスト、パルチザン、あるいはレジスタンスと立場によって色々な呼び方をされる武装組織も、公然と武器を携帯するなどすれば、戦闘員としての地位が認められる。しか し、ひたすら犯罪者として扱う国もある。 小川和久氏は、「武装勢力に拘束されたりした時、国際法規に基づく捕虜の権利を主張」と言っているが、権利を認めていない相手の権利を認める人間を探すのは、モンゴルで野生のチンパンジーを見つけるより難しいだろう。