「自民党憲法改正草案」part4 改憲の必要性と手続き

自民党憲法草案」シリーズpart4は、改憲の必要性と手続きについて
そもそも、「Q&A」は憲法を改めることを無条件によいことだという前提に立って以下のように書かれている。

「Q&A」p3
また、世界の国々は、時代の要請に即した形で憲法を改正しています。主要国を見ても、戦後の改正回数は、アメリカが6 回、フランスが27 回、イタリアは15 回、ドイツに至っては58 回も憲法改正を行っています。しかし、日本は戦後一度として改正していません。
「みんな」がやっているというのは、正しさを担保しない。また、それは誤っているという根拠にもならない。Aさんはここ10年で4回引っ越ししました。Bさんは同じ期間で一度も引っ越しをしていません。Bさんは、Aさんにならって引っ越しすべきだ、と言えないし、引っ越しすべきでないとも言えない。Bさんは他人がどうあれ、必要があれば引っ越しすべきだし、必要がなければ引っ越しすべきでない。
憲法も同じで、他国の状況から離れて、改正が必要か語るべきだろう。例えば、憲法の規定に抜け穴があって、そこをついた人権侵害が横行しているから、憲法を改正する必要がある、といったことを論じるべきだろう。

「なぜ、今、憲法を改正しなければならないのですか? なぜ、自民党は、「日本国憲法改正草案」を取りまとめたのですか?」という想定質問に対して、用意された答えの中にこう書いてある。

「Q&A」p2
現行憲法は、連合国軍の占領下において、同司令部が指示した草案を基に、その了解の範囲において制定されたものです。日本国の主権が制限された中で制定された憲法には、国民の自由な意思が反映されていないと考えます。
日本国憲法誕生の経緯が改憲の理由になるというのなら、連合軍に影響されなかったら、もっと優れた憲法ができたことを証明して欲しいものだ。また、サンフランシスコ平和条約発効から何十年も、変えることができたのに、変わらなかった憲法が、国民の自由な意思が反映されていない、というのは、無茶だと思うぞ。

「草案」の大きなポイントのひとつに憲法改正要件の緩和がある。改正の発議には、各院で総議員3分の2以上の賛成が必要とされていたものを、過半数とするのだが、

「Q&A」p34
現行憲法は、両院で3分の2以上の賛成を得て国民に提案され、国民投票過半数の賛成を得てはじめて憲法改正が実現することとなっており、世界的に見ても、改正しにくい憲法となっています。
憲法改正は、国民投票に付して主権者である国民の意思を直接問うわけですから、国民に提案される前の国会での手続を余りに厳格にするのは、国民が憲法について意思を表明する機会が狭められることになり、かえって主権者である国民の意思を反映しないことになってしまうと考えました。
日本国憲法が、頻繁な改正を予定しておらず、改正要件が厳しいことは確かであるが、世界的に改正しにくい、訳ではない。
例えば、デンマーク
1 国会での改正案を可決
2 国会を解散して国会議員選挙
3 再度、改正案を国会での可決
4 国民投票に付し、投票者の過半数かつ全有権者の40パーセント以上の賛成

スペイン憲法で、国民の権利義務に関する条項を改正しようとすれば、さらに高いハードルをこえなければならない。
1 上下両議院の議員それぞれ3分の2以上の議決
2 1の後、直ちに国会は解散
3 新たに選出された両議院議員のぞれ3分の2以上の議決
4 国民投票

いずれも、憲法改正を争点とした選挙を予定していると言える。
さらに「Q&A」の71ページに、「主要国における憲法改正手続の規定・戦後の憲法改正(平成24 年4 月現在)」が、掲載されているが、そこに挙げられている、各国の改正手続きを見ても、現行の日本国憲法の改正手続きと比較して、著しく改正が簡単だ、と言えるものは見あたらない。戦後日本で、憲法改正が一度もなかったのは、改正手続きの厳格さとは別に理由を求めるべきだ。

最後に権力が憲法をコントロールするのではなく、憲法が権力をコントロールする、という原則を考えれば、憲法を容易に改正できることは避けた方がよいであろう。
いや、自民党を中心とした保守派政治家たちの、人権や、日中戦争とそれに続く太平洋戦争、そして戦前の日本社会についての考えを見るにつけて、憲法改正の手続きは、さらに厳しくすべきだろう。

参考にした図書

世界の憲法集

世界の憲法集

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