ブロントサウルスの思い出

 上野の国立科学博物館で、小学生かと思われる男の子に質問を受けたことがある。
アパトサウルスはどこですか?」

 私も恐竜少年だった自負はあるのだが、はて、そんな恐竜いたっけと、新発見の恐竜なのだろうか、と考え込んだ。
 ともかく、恐竜の展示コーナに行って、彼と一緒にアパトサウルスを探し、見つけた。男の子は満面に喜色を浮かべて化石標本に駆け寄った。いや、駆け寄りかけて、保護者のしつけが行き届いているのか、立ち止まって私に
「ありがとうございましたあ」
と礼を言ってから、駆け寄って行った。

後に残された私は心中で叫んだ。
ブロントサウルスやんけ〜!」
私が子どものころボロボロになるまで、読んだ恐竜図鑑では、ブロントサウルスとされていた恐竜ではないか。

一体、あの首長の竜脚類の恐竜に何あったのか?
FPDM: 恐竜・古生物 Q&A - ブロントサウルスが、現在アパトサウルスと呼ばれているのはどうして?

 要は、学問的には「アパトサウルス」と呼ぶのが正しく、一般に「ブロントサウルス」という誤った呼び方がひろまっていたということなのだ。

 こんなことを書いたのは、朝日新聞従軍慰安婦問題報道について、誤った報道について、訂正だけでなく、謝罪をしなければならない、と論があまりにも多いので、他の誤報についてどう扱われたか、例をあげるためだ。

 朝日新聞のデータベースで調べると、朝日新聞に「アパトサウルス」と「ブロントサウルス」の名称問題についての最初の記事は、1994年7月16日付夕刊の「幼い恐竜学者」と見出しのものだ。その記事の前に掲載された恐竜博の記事に「アパトサウルス」を「ブロントサウルス」と誤って呼んでいるという、読者からの指摘があったことを書いている。しかも、アパトサウルス(記事ではブロントサウルス)を「首長竜」と書いたことの誤りを含めて、投書したのは小学2年生の女児だったそうで、前述のタイトルになったようだ。この朝日新聞の記事は「参りました」という感じが、行間からただよっている。
 
 その後、朝日新聞は科学欄では、「アパトサウルス」を使用し、以前は「ブロントサウルス」と呼ばれていたと言う注釈がたいてい、ついている。命名の経緯についてくわしく書いた記事もあった。「ブロントサウルス」を使用している記事が3件あったのが、メガバンクの巨大さの比喩としての使用であったり、折り紙の題材についての記事で、あえて一般に知られている名称を使用したのか、校正のミスかは不明だ。
 
 一方、産経新聞では1993年8月21日付朝刊記事に「ブロントサウルス」を使用した後、1997年7月9日付朝刊の西オーストラリア州での化石発掘についての記事に「アパトサウルスブロントサウルス)」と特に注釈もなく書いている。

 私はもちろん、このことについて、新聞が謝罪すべきだ、などと言いたい訳ではない。記事に誤りがあった場合、何が誤りであり、また誤りであることがわかった経緯を明らかにすればよいのだ。「アパトサウルス」と「ブロントサウルス」の名称問題について言うなら、産経新聞は及第点に達していないが。

NHKは2016年の大河ドラマの主役について謝罪したのか。

 中生代の生き物についてはどうでもいい。従軍慰安婦問題は、日本の歴史の問題だ、という人がいるかも知れない。では、日本史について誤った報道が長期間されていた問題を紹介しよう。
 堺雅人が演じる2016年大河ドラマ真田丸」の主役の名前は何でしょう。
 真田幸村と答えた人、ブッブー 不正解です。答えは真田信繁。NHKのウェブページにも書いてある。
堺雅人さんが真田信繁(幸村)役に決定!大河ドラマ『真田丸』 | 大河ドラマ | NHKドラマ
 生前の史料で「幸村」の名が使われているものはなく、本人が「幸村」と名乗っていたとは考えにくいのだが、今までのドラマやニュース等ではNHKは「真田幸村」を使っていた。「幸村」ではなく「信繁」を使うにあたって、NHKの籾井会長は会見で謝罪した(する)のだろうか。