嘘つきは事実でないことを語るが、事実でないことを語る者が嘘つきであるとはかぎらない。

かつてテレビドラマ版『永遠の0』を妻と観ていたとき、彼女が言った。「あの二人乗りの零戦は、どうして自爆するの」。もちろん、それは、爆撃機であって、彼女にとって太平洋戦争中の日本軍の航空機は全て「零戦」なのであった。このエピソードを思い出したのは、下のようなツィートを見たからだ。




 B29から機銃掃射を受けたという証言を、そんなのあり得ない、証言者は信用できない、とするか、証言者のいう「B29」とはボーイング社の4発爆撃機ではなく、「空を飛ぶ米軍機」の総称である可能性があって、証言を門前払いできないと考えるか.
私は後者の考えが正しいと考える。
 従軍慰安婦が「ジープ」に乗せられたという証言も似た話だが、*1軍事兵器についての知識は、生活に必須のものではないのだ。軍事兵器の種類や型式を正確に答えられる方が、むしろ不思議だ。大日本帝国にはジープなんてなかった!といっている人間の中にもウェポンキャリアを「ジープ」と間違えたり、M36ジャクソンを戦車という人間が少なからずいると思うぞ。

 さらに、そうした証言に含まれている、あえて言えばささいな誤りをあげつらう人々は、そうした誤りがあれば、証言全てが虚偽として葬りされると考えているようだが、これは全く奇妙なことだ。冒頭に書いたエピソードで言えば、テレビドラマ版『永遠の0』には、「二人乗りの零戦」は登場しない、従って私の妻が、テレビドラマ版『永遠の0』を観たというのは、嘘だ、と主張するようなものだ。

 もちろん、証言者の属性から犯すはずがないという誤りが、証言に含まれているから、証言者が身分を偽っている、あるいは、証言は虚偽である、と判断すべきときもある。父はカメハメハ大王の末裔、母はエリザベス女王の妹の夫のいとこ、自分は米海軍のパイロットと自称する男が、ファントムに乗ってサダム・フセインの基地を偵察する、と言ったら、「F-4は米海軍から退役している」と指摘すべきだろう。

 しかし、民間人が機銃掃射してきた米軍機をB-29と思っていたり、ジープを軍用自動車の呼称と思っていても、不思議なことではない。彼、彼女の話が嘘だという根拠にはなりえない。