『やっぱり見た目が9割』

やっぱり見た目が9割 (新潮新書)

やっぱり見た目が9割 (新潮新書)

『人は見た目が9割』の続編。帯に「第一印象は当たりやすい」と書いてあったから、「そういう知見が発見されたのか」と思って読んでみた。
結論から言うと、全くそういう記述はなかった。

本書を読めば次のようなメッセージを受け取ることになる。

  1. 人間は相手の外見や話し方といった、非言語情報によって相手の能力や性格を判断する。
  2. 1の結果は、非言語情報の発信側が責任を負う。正しく非言語情報を発信できないやつが悪い。
  3. よい性格や高い能力を持っていると評価してほしければ、そうした性格や能力をもっているとみなされる非言語情報を発信しなければならない。
  4. 付け焼刃に外見を整えても本質を見破られてしまう。

第一印象って当たるの?

第1の点について気になるのは、「第一印象で判断」というやりかたで、相手の能力や性格を正しく判断できるのか、というだが、序章に「第一印象は当たりやすい」という項がある。ここにはそれへの回答が書いていないのだ。17ページに載っているのが以下の記述。

朝日新聞の二〇〇六年四月十五日付朝刊に、「見た目」に関する調査結果が載っている。三三一七人を対象とした大規模な調査である。 「第一印象を重視しますか?」という問いに、「八二%」が「はい」と答えている。なぜそんなに高率なのだろうか。それは「第一印象は比較的正確だ」という実感があるから、そう答えているのだ。

いや、それは「第一印象は当たりやすい」という何の根拠にもならないぞ。「血液型占いで人間の性格を判断できると思いますか」という問いにいくら多くの人間が「はい」と答えても血液型占いが正しいということにはならない。

第一印象が悪かったために付き合わなかった人間のことはよくわからないから、その第一印象が覆ることはない。第一印象が外れるという現象が観測されないわけだ。

また、他人の言動を第一印象にそって解釈するという傾向があることも大きいだろう。その後の交際においても第一印象によって形成された見方にそった解釈をするということも大きいだろう。

公正を期すため書いておくと、この「第一印象は当たりやすい」という項には、「第一印象が当たる」と思ってしまうか、というメカニズムについて書いてある。だからなおのこと、「第一印象は当たりやすい」なんてタイトルをつけるのは駄目だろう。

本書の61ページから62ページに、JALの客室乗務員が、ファーストクラスのアメリカ人に、八重歯を理由に怒鳴られたというエピソードが、紹介されているが、私などは、なんてひどい客なんでしょう、と思ってしまうんだが、筆者は肯定的にとらえているようだ。
何でも、「何だ、そのドラキュラみたいな歯は!」「そんな貧乏人が持ってくるワインなんか飲めない」と怒鳴られたそうだ。ドラキュラは領地を持っている伯爵さまで、貧乏人じゃないだろう、と突っ込みたくなる。
ところが本書にも書いてあるが、日本で八重歯に、他人を怒鳴りつけるほどの嫌悪感を抱く人はそんなにいないだろう。件のアメリカ人乗客は、JALの客室乗務員を八重歯という非言語的シグナルで貧乏人と断じたが、いくら何でもこれはハズレだろう。JALの客室乗務員は、貧困層なのだろうか。
文化の違う相手に言語情報よりも非言語情報に重きを置いたコミュニケーションを試みた結果の悲劇だ。


第一印象って発信側だけの責任なの?

第2の点だが、通常のコミュニケーションにも働く、権力の強弱の差が、非言語コミュニケーションではさらに鋭く現れるということだろう。前述の客室乗務員の例だと、相手が客室乗務員だから、こんな一方的な非言語情報の解釈ができたわけだ。
他に例を挙げれば、不随意運動のある脳性まひ者や構音障害のある人間の話す内容が、聞き手の、非言語情報の(勝手な)解釈によって話していることの価値を低く見積もられるということは、多いだろうが、それは本人の責任なのか。


実際には、「非言語情報」によって判断を左右されていることが多い。これは正しい・正しくないという問題ではなく、人間が動物である以上、本能的な性質であり、仕方のないことである。
動物としての性質であるということで肯定できるのならば、戦争も殺人も強姦も肯定しなければならないだろう。また、非言語情報のかなりの部分、生まれ持った要素に左右されるのだから、「本能的な性質」とやらよりも、「見た目で判断してはいけない」という市民社会の常識を重視すべきだろう。


それではなぜ新入社員はハズレなの?

本書の終章で「面接は一瞬で決まる」という項目が立てられており、(就職活動の面接の場で)「いい学生」は、誰が見ても「いい」のである、という言葉が紹介されている。
単に評価基準が同じ人間が選んでいるだけだ、という懸念は抱かないのか、とか、「いい学生」をそれほど簡単に見分けることができるのになぜ、「今年の新入社員は、ハズレばかり」と新入社員への怨嗟と侮蔑に満ちた記事が、毎年のように中高年会社員むけの雑誌に載るのか、とか、この言葉を読んだときにいくつも疑問が浮かんだ。

突っ込みをいれながら読むのが、楽しい本だった。