読書

SFに登場する奴隷の描写について

アーネスト・クラインの『ゲームウォーズ』を読みました。 人類にとって革新的なネットワーク世界オアシスが生活にも密着した2041年が舞台。開発者のジェームズ・ハリデー(ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズあたりがモデルだろう)の莫大な遺産の争奪戦が…

『丸刈りにされた女たち――「ドイツ兵の恋人」の戦後を辿る旅』

今回紹介する、藤森晶子氏の『丸刈りにされた女たち――「ドイツ兵の恋人」の戦後を辿る旅 』(岩波現代全書)を、私がこの本を手にする契機となったのは、下のごとく、ナチスドイツ占領下のフランスで、ドイツ軍の将兵と交際していた女性は、「慰安婦」なのだ。…

前借金は借金ではない〜『売春と前借金』(日本弁護士連合会編)

従軍慰安婦問題に限らず、人身売買をあつかった書物には、必ずと言っていいほど「前借金」という言葉が登場する。日本弁護士連合会が1974年に出した『売春と前借金』(1974年)(高千穂書房)は、その前借金契約に焦点をあてて、売春問題について書いたものだ…

うちの奴隷制はよい奴隷制〜『イスラーム史のなかの奴隷 』

http://www.asahi.com/articles/ASJ2L7JGBJ2LUHBI02H.html 上の記事の杉山晋輔外務審議官は、「なお、「性奴隷」といった表現は事実に反します。」と言いつつ、その根拠を述べていないが、彼と同様に従軍慰安婦は奴隷ではないという人の多くは、慰安婦が好待…

『第三のチンパンジー』とタスマニア人へのジェノサイド

ジャレド・ダイアモンドの『若い読者のための第三のチンパンジー: 人間という動物の進化と未来』が出ていたので、早速、購入の上、読んだ。 タイトルからは分かりにくいが、『人間はどこまでチンパンジーか?―人類進化の栄光と翳り』に、その後の新しい知見に…

『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』

『マッドマックス』『アイ・アム・レジェンド』など文明崩壊後の世界を描いた映画は少なくない。小説だと、ジョン・ウィンダムの『トリフィド時代』、小松左京の『お召し』や『復活の日』の後半も、それに分類できるのかも知れない。そうした作品の多くは、…

ビジネス本じゃないよ。〜『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』

センディル・ ムッライナタンとエルダー・ シャフィール『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』はビジネス書ではない。日本語タイトルからは、「todoリストはこう使え」とか「会議は無駄防止のため、立ってせよ」といったノウハウが書かれた本に…

『人種とスポーツ』

「黒人の身体能力にはかなわない」と言った主張は、スポーツ中継の解説でも飛び出ることがあるのだが、「黒人は本当に「速く」「強い」のか」と副題を付けられた本書は、人種差別とスポーツとの関わりの歴史をのべつつ、そうした「黒人=天性のアスリート」…

『永遠の0』のごまかし

百田尚樹氏の『永遠の0』について4回にわたって主に考証面について記事にした。『永遠の0』に資料のひきうつし、とか、パクリとか批判があるのだが、むしろそれらの批判に値する段階まで至っていないのだ。今まで書いてきたこと以外にも、文庫版189ページ…

落下傘を撃つというのはどうなの〜もう4回目になったよ 『永遠の0』についての記事

『永遠の0』の映画版で、原作からカットされたエビソードとして、脱出中の米パイロットの落下傘を主人公宮部が、撃つというものがある。主人公のこんな反倫理的行為は、おそらくドラマ版でも描写されないと思うが、小説の中では、宮部は戦争はきれい事では…

記述の誤りは、筆者の責任です。〜『永遠の0』の主要参考文献

『永遠の0』について、百田尚樹氏がこんなことを言っていた。『永遠の0』はつくづく可哀想な作品と思う。文学好きからはラノベとバカにされ、軍事オタクからはパクリと言われ、右翼からは軍の上層部批判を怒られ、左翼からは戦争賛美と非難され、宮崎駿監…

『永遠の0』が描くミッドウェー海戦は不思議な事だらけ

前回に引き続き、『永遠の0』(百田尚樹)について。 宮部久蔵の孫は、元海軍中尉の伊藤寛次から、珊瑚海海戦とミッドウェー海戦について話を聞くのだが、「地元の商工会のかなりの大物」でもある伊藤は、年月が経過したせいか、おかしなことを言ってしまう…

老人の思い出話は全て正しいとは限らない〜『永遠の0』

百田尚樹氏の『永遠の0』が映画に引き続き、テレビドラマ化されるそうな。原作については、立ち読みでも、特攻への賛美や、戦後社会への嫌悪が目立っていたのと、作者の言動に好感が持てずに身銭を切っての購入をためらっていたのだが、この度、本を入手し…

『エトロフ発緊急電』

以前紹介した『ネプチューンの迷宮』の作者、佐々木譲による「太平洋戦争三部作」のひとつ。真珠湾攻撃を巡る日米の諜報戦を描いた本作は、『エトロフ遥かなり』というタイトルで1993年、NHKがドラマ化した。ドラマでは原作通り、登場人物のひとりの背景…

『ネプチューンの迷宮』

架空の国ポーレア共和国を舞台にした冒険小説だ。 ポーレア共和国のモデルになったのは、太平洋のナウル。 ナウルでは、唯一の産業であるリン鉱石採掘業が衰退したため、財政と経済が破綻した。小説の中のポーレア共和国でも、唯一の輸出品であるリン鉱石の…

経済的強制はないらしい。

年末に以下の2冊を読んだ。 『まっとうな経済学』(ティム・ハーフォード) 『大格差:機械の知能は仕事と所得をどう変えるか』(タイラー・コーエン) 二冊ともに、新自由主義的な世界観が出ていた。前者は、発展途上国の労働条件の劣悪な搾取工場への反対…

従軍慰安婦関連書籍のレビューをレビューする その2〜吉見義明『日本軍「慰安婦」制度とは何か』

「従軍慰安婦関連書籍のレビューをレビューする」の第2弾記事である。 『日本軍「慰安婦」制度とは何か (岩波ブックレット 784)』の評価も星5つ14件に星1つが9件なのに星3つが0件と、両極端に分かれている。(2014年12月29日現在) 星1つのレビューに共通…

従軍慰安婦関連書籍のレビューをレビューする その1〜吉見義明『従軍慰安婦』

『「慰安婦」問題を/から考える――軍事性暴力と日常世界』に付けられたAmazonレビューについて記事を書いた。 『「慰安婦」問題を/から考える――軍事性暴力と日常世界』とそれに対するひどすぎるレビューについて - davsの日記 従軍慰安婦問題についての書籍の…

『「慰安婦」問題を/から考える――軍事性暴力と日常世界』とそれに対するひどすぎるレビューについて

従軍慰安婦問題についての論文とコラムをあつめた本。 日本人従軍慰安婦についてや、各国の軍や政府による管理売春の実態についての論文、橋下氏の名誉毀損発言に対する裁判の経緯についてふれた吉見義明氏のコラムなど、内容は多岐にわたる。この本について…

人民戦隊・党レッドの経済綱領に心引かれる〜『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』

『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』を読んだ。 1970年代から現在まで経済論争の潮流を概観しつつ、松尾匡氏が強調するのは、「リスク・決定・責任の一致が必要だ」ということと「予想は大事」ということだ。前者は、リスクが一番あって、そのリスクにかかわ…

そう言えば、天皇が帝国軍人に殺害される架空戦記もあったな

この記事を読んで思い出したこと 「懲罰」として、天皇や米大統領が殺害される怪獣映画を作ってほしい。 - 誰かの妄想・はてなブログ版 以下、ある小説の結末を含んだ内容に触れます。

『帝国憲法の真実』その2

前回にひきつづき、『帝国憲法の真実』について。前回の記事に当たって、つっこみどころに付箋をつけながら読んでいったら、付箋だらけになってしまったので、問題のないページに付箋をはることにした。倉山氏は、帝国憲法を愛し、日本国憲法を憎む。 その理…

『帝国憲法の真実』〜人生において何の役にも立たないことだけは約束します。

帝国憲法の真実 (扶桑社新書)作者: 倉山満出版社/メーカー: 扶桑社発売日: 2014/05/01メディア: 新書この商品を含むブログ (5件) を見る本記事のタイトルにつけた副題だが、我ながらひどいことを書いている、と思う。しかし、この表現は、今回紹介する『帝国…

昨日の味方は今日の敵〜軍事シュミレーション小説の仮想敵

図書館で、1980年前後に書かれた日本とソ連との軍事衝突を描いた小説を見つけた。2は1の続編である。 『ソ連軍日本上陸!』 『ミンスク出撃す!』 尖閣諸島を巡って自衛隊と中国軍が軍事衝突する、という筋書きのシミュレーション小説が目立つ。 近未来に…

特攻の戦果は圧倒的か? 『永遠の0』と日本人

『永遠の0』と日本人 (幻冬舎新書)作者: 小川榮太郎出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2013/12/12メディア: 新書この商品を含むブログ (3件) を見る『永遠の0』、『終戦のエンペラー』や宮崎駿アニメを題材に筆者の心情をつづったエッセイ。Amazonのレビュー…

期待したのにがっかりだよ。『改正・日本国憲法』

自由民主党政務調査会で新憲法草案の作成にあたってきた人物の著作。改正・日本国憲法 (講談社+α新書)作者: 田村重信出版社/メーカー: 講談社発売日: 2013/11/21メディア: 新書この商品を含むブログ (1件) を見る自民党憲法草案が出てから、それに対する批判…

『やっぱり見た目が9割』

やっぱり見た目が9割 (新潮新書)作者: 竹内一郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2013/07/13メディア: 新書この商品を含むブログを見る『人は見た目が9割』の続編。帯に「第一印象は当たりやすい」と書いてあったから、「そういう知見が発見されたのか」と思…

『昨日までの世界』

『銃・病原菌・鉄』で日本でも名前を高めたジャレド・ダイアモンドの最新作。非娯楽書籍で「待望の最新刊!」なんて書かれた帯ははじめて見たぞ。 人類の大半が、集権的な国家のもとで生きるようになったのは、人類の歴史からみればそれほどの昔ではない。本…

自転車に乗るなら『自転車の安全鉄則』

自転車の安全鉄則 (朝日新書)作者: 疋田智出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2008/11/13メディア: 新書購入: 6人 クリック: 27回この商品を含むブログ (28件) を見る事実として、日本では自転車の歩道走行がなかば黙認されている。 しかし、それが自転車…

『マルドゥック・スクランブル』

未成年娼婦ルーン・バロットは、ショーギャンブラーのシェルに拾われ、彼の専属娼婦になる。それはシェルの犯罪計画の一環であり、バロットは謀殺されかかる。 しゃべることができ、歌って踊れるネズミとパンクなドクターに、瀕死の彼女は、金属繊維の人工皮…