『丸刈りにされた女たち――「ドイツ兵の恋人」の戦後を辿る旅』

 今回紹介する、藤森晶子氏の『丸刈りにされた女たち――「ドイツ兵の恋人」の戦後を辿る旅 』(岩波現代全書)を、私がこの本を手にする契機となったのは、下のごとく、ナチスドイツ占領下のフランスで、ドイツ軍の将兵と交際していた女性は、「慰安婦」なのだ。フランスの「慰安婦」が占領からの解放後にリンチにあっているのに、朝鮮半島出身の慰安婦達がそういう目に遭っていないのはおかしい、とトンデモない主張を目にしたことだった。



 ついには、慰安婦だった女性は、罰せられるべきだった、と言っているとしか解釈しようのないことも言い出した。


@zgmfx10afreedo4氏の主張がまずおかしいのは、ドイツ軍の将兵と交際していた女性は、「慰安婦」だ、というところだ。慰安婦というのは、そもそも日本軍が自軍の将兵相手の売春をさせるために集めた女性を表現するために作られたことばで(ごまかし語と言ってもよい)、他国のことがらに慰安所慰安婦という言葉を使うなら、よほど日本軍のそれに類似したものでないと、適当ではないだろう。第一、@zgmfx10afreedo4氏が持ち出してきた『NHKスペシャル』新・映像の世紀は、髪を刈られるというリンチを受けた女性たちのことを、「ドイツ兵と親しくしていた女性」と説明している。「慰安婦」いう言葉は出てこない。1995年7月15日に放送された『映像の世紀』の録画の方も見てみたが、こちらも「ドイツ兵との交際のあったフランス人女性」と説明されていた。
 私も上のような質問をzgmfx10afreedo4氏に投げたが、ついに応答はなかった。

丸刈りにされた女たち――「ドイツ兵の恋人」の戦後を辿る旅』

筆者の藤森氏が、この占領中にドイツ兵と交際していたために戦後髪を刈られるというリンチを受けた女性のことをはじめて知ったのは、先に書いた『映像の世紀』らしい。(あとがきの記述からは、正月にまとめて放送された再放送のようだ)。私もリアルタイムでこの番組を見たが、暴力を振るう側の笑顔がひどく醜く見えたことを覚えている。

 藤森氏は、フランスで当事者の女性にあって聞き取りを行う。証言者みつけることはは、本書に書いてあるが、困難なものだったようだ。彼女たちのことを「フランスの恥」「娼婦」とみなすひとびとも多い。
 
 そもそも、なぜ丸刈りなのか。本書によれば、それは中世の姦通の罰までさかのぼるものなのだという。対独協力者は、むろん女性に限るものでなかったが、髪を刈られるリンチを受けたのは、女性に限られていた。また、ドイツの女性と交際したフランス人男性は、髪を刈られるリンチを受けることはなかった。さらに言えば、女性の髪を刈り、さらしものにするという制裁は、ドイツでも行われており、それはポーランド人などナチスが「劣った」とみなす民族の男性と交際した女性が対象だった。ここでも、制裁の対象とされるのは、女性であって男性ではなかった。