うちの奴隷制はよい奴隷制〜『イスラーム史のなかの奴隷 』

http://www.asahi.com/articles/ASJ2L7JGBJ2LUHBI02H.html
上の記事の杉山晋輔外務審議官は、「なお、「性奴隷」といった表現は事実に反します。」と言いつつ、その根拠を述べていないが、彼と同様に従軍慰安婦は奴隷ではないという人の多くは、慰安婦が好待遇だったという説を持ち出す。(変わったところでは、当時の日本の感覚では、奴隷ではなかった、とか、身売りは人身売買と違って合法だった、という人もいる)そうした人のイメージする奴隷は、おそらく、映画『ベンハー』でガレー船を漕ぐ奴隷のようにむち打たれて働かされるというものだのだろう。

 そうしたイメージにあてはまらない奴隷の姿が、『イスラーム史のなかの奴隷 (世界史リブレット)』で描かれている。君主の身辺を守る奴隷軍人、というものは、先に述べたような奴隷のイメージからは、想像しにくいだろう。


例えば「イスラーム奴隷制は近代アメリカの奴隷制とは違う」という認識を、当時のムスリムももっていたらしい。近代にヨーロッパ世界が奴隷制廃止の要求を突きつけたことに対し、オスマン帝国の高官が、「われわれの奴隷制はあなた方の奴隷制とは違う。アメリカの黒人奴隷たちのような過酷な奴隷制などイスラーム社会には存在しないのだ」と言ったエピソードが紹介されている。このオスマン帝国の高官の主張は、現代でも人権侵害を批判された側がよくいう言い訳と共通する構造を持っているし、イスラーム社会の奴隷も所有者に生殺与奪の権をにぎられ、暴力をふるわれ、(特に女性の奴隷は)性的に搾取される存在だった。

イスラーム社会の奴隷が特殊だった訳でなく、

  1. 古代地中海・メソポタミア社会
  2. ローマ帝国
  3. ローマ帝国の南方継承国家としてのイスラーム社会
  4. イスラーム圏のポルトガル・スペイン
  5. アメリカ大陸

という連続線があるのだという。

しかしながら、一方で、いったん奴隷制を批判する思想が広がると、急速に奴隷制自体をイスラーム法によって否定するという、クルアーン解釈のもつ柔軟性も指摘されている。