特攻の戦果は圧倒的か? 『永遠の0』と日本人
- 作者: 小川榮太郎
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2013/12/12
- メディア: 新書
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むしろ、簡単なところでミスが目立つ。
昭和十七年六月のミッドウェー海戦で太平洋艦隊の主力部隊が、戦術的判断の誤りを重ねて壊滅的な打撃を蒙り(p125)ここを読んだ時、わが目を疑った。筆者が「日本はミッドウェー海戦で勝っていたのだ」と言い出したのかと思った。太平洋艦隊って米海軍の組織で、日本海軍の組織じゃないよ。ここは「日本海軍の機動部隊」と書くべきでしょう。
ミッドウェー海戦で日本の空母三隻を撃沈した空母「ヨークタウン」に体当たりし、これを大破した例(p208-209)
「ヨークタウン」の艦爆撃隊は日本の空母「蒼龍」を沈めたが、「赤城」「加賀」の沈没は「エンタープライズ」隊の爆撃によるもの、また「飛龍」は「エンタープライズ」の艦爆隊と「エンタープライズ」に退避していた「ヨークタウン」爆撃隊が沈めた。一隻撃沈か、多くとっても一隻半撃沈だ。先の引用部分は、「飛龍」の友永機の体当たりのことを指す。筆者は「ヨークタウン」の大破は体当たりが主因のよう書いているが、「ヨークタウン」はこの時、複数の爆弾と魚雷を受けているのだ。
どうやら、筆者には体当たり攻撃の効果を高く見積もりたいという傾向があるようだ。
第5章ではそれをはっきり打ち出している。
筆者が特攻について言っているのは2点
- 特攻は圧倒的な戦果をあげており、これがなければ、日本本土は蹂躙され、日本人は奴隷となっていた。
- 特攻隊員は平らかで、清らかな心で出撃し、散華していった。
特攻の戦果は大きかったのか。
筆者が多大な戦果をあげたとする特攻だが、そもそも特攻は通常の攻撃方法よりも威力が低い。爆弾を装着したまま体当たりするが、その激突速度は、上空から投下される爆弾の速度よりも遅く、当然貫徹力も低い。また魚雷のように敵艦の喫水線下を破壊することもできない。
実際、複数特攻機が命中しても沈没しなかったケースがある。オーストラリア海軍の重巡洋艦「オーストラリア」は6度体当たりを受けたが沈まなかった。駆逐艦ラフェイにも至近1機を含む6機が命中したが結局沈まなかった。
特攻で沈められた艦で大きいのは、3隻の護衛空母「セント・ロー」、「オマニー・ベイ」及び「ビスマーク・シー」で残りは駆逐艦以下の小艦艇や輸送船の類である。空母を沈めたじゃないか、と言われるかもしれないが、護衛空母はもともと潜水艦や航空機から味方船団を守るための軍艦で、敵の艦隊と正面から戦うものではない。当時のアメリカ海軍の正規空母と比較して排水量も搭載機の数も3分の1以下である。
とても、「必死」の戦術の効果としてひきあうものではない。
特攻の「命中率」
本書では特攻の戦果が圧倒的だった根拠として、1944年10月から翌年3月まで、特攻命中率39パーセント、敵艦至近での自爆によって被害を与えた至近自爆機被害率17パーセント、合計特攻効果率56パーセントというアメリカ海軍の機密文書の記載を紹介している。筆者自身が言っているように、この命中率の分母には、米艦の近くにたどり着けなかった特攻機は含まれていない。56パーセントというのは、米軍が戦場で視認した特攻機の来襲機数を分母とし、被害を与えた特攻機の機数を分子にした数字である。決して出撃した特攻機の半分以上が、敵艦に被害を与えたということではない。
参考 http://www.geocities.jp/torikai007/1945/kamikaze-statistic.html
それでは、出撃した特攻機のうち戦果をあげた割合はどれほどなのか。
『つらい真実―虚構の特攻隊神話』(小沢郁郎)によれば、出撃特攻機延数を分母とし、命中機数及び至近突入を分子とした割合は、高くても13.1パーセント(命中に限れば6.7パーセント)であるという。特攻機の援護をする直掩機を分母に算入したり、被害を受けた艦船の数を分子にすれば、この割合はさらに低下する。
比較のため、通常の攻撃法による戦果について書いておく。
1942年5月の珊瑚海海戦で、艦戦18、艦爆33、艦攻18の日本側攻撃隊は、アメリカ空母2隻に爆弾3発と魚雷2発を命中させた。直掩機を計算にいれない前述の計算法をあてはめると、命中率は9.8パーセントとなる。もちろん、アメリカ側の防御手段の向上はあるにせよ、特攻が通常の攻撃法と比較して、圧倒的な戦果を挙げたとは言えないだろう。
特攻の成果は敵艦に突撃できた機を個体で勘定すべきではない。文字通り総力戦で全体としての成果を勝ち得たと言うべきだ。(p227)こんな言葉で、軍事作戦を語ってほしくない。