期待したのにがっかりだよ。『改正・日本国憲法』

自由民主党政務調査会で新憲法草案の作成にあたってきた人物の著作。

自民党憲法草案が出てから、それに対する批判・反対も、多くあった。ネット上に表明されたもの、本になったもの、かたちもさまざまあった。そうした批判・反対がほぼ出揃った時期に自民党側から出された憲法改正ものの本だから、結構わくわくと期待していたのだ。そうした批判への、彼らなりの回答・反論が読めるだろう、と。

しかし、その意味では全く期待はずれな本である。「自民党憲法改正草案Q&A」から前進していない。
いやむしろ、「自民党憲法改正草案Q&A」では遠慮があったのか、本書の方は「美しい国日本」への愛と、左翼(というより、松尾匡氏のいうところの、逆右翼)やGHQへの怨みが覆いようのないほど目立つ。

例えば第一章の「憲法改正議論−これだけ読めば納得」に「憲法改正手続きはなぜ厳しいのか」という項目がある。日本国憲法は、改正要件が厳格すぎる、今まで改正ができなかったのはおかしい、と主張している。その後に続けて、それはアメリカが仕組んだことだ。と結論付けている。


なぜ、厳しいのか? それは、日本の憲法アメリカがつくったからだ。日本を弱体化しようという観点から、憲法改正をしにくくした。まずそこを抑えておく必要がある。
自民党政府の外交方針は、アメリカ合衆国との同盟堅持であるはずだけど、その同盟相手を陰謀の主体だ、と名指ししているわけだ。自民党のスタッフとして、それでいいのか? 他人事ながら心配である。

過去の記事日本国憲法は、改正要件が厳格すぎるというのは誤りだ、と書いた。戦後の日本で憲法改正がなかったのは必要がなかったからだろう。

あとは、憲法の本のはずなのに、やたらと道徳や精神のお話が出てくる。第5章はずばり、「憲法改正で実現する「美しい国」」だ。現代の日本人は、過去の日本人と比較して、道徳的に劣化しているという前提が、検証もなしに置かれて、記述がすすむ。そうそう、この章の最初にいわゆる「アインシュタインの予言」が、事実として紹介されているのだけれど、これって出典が発見されたのでしたっけ。