昨日の味方は今日の敵〜軍事シュミレーション小説の仮想敵

図書館で、1980年前後に書かれた日本とソ連との軍事衝突を描いた小説を見つけた。2は1の続編である。

  1. ソ連軍日本上陸!
  2. ミンスク出撃す!


尖閣諸島を巡って自衛隊と中国軍が軍事衝突する、という筋書きのシミュレーション小説が目立つ。
近未来に起こる他国との軍事衝突を題材にした小説、というものは、最近できたジャンルではない。およそ、1980年前後には、ソビエト連邦と、日本が軍事衝突するという設定の小説がいくつも書かれた。

それらの多くは北海道にソ連軍が侵攻するというもので、自衛隊が想定していた局地戦を描いていた。
それらに比べると、ソ連軍が東京を制圧し、日本に親ソ政権が誕生する、という本作は、壮大とが評すべきか。

もっとも、この本、実際の歴史を知っている人間の目から見たらなんだかおかしなところのある本である。

この本を見て驚くのが、写真のページがあることである。
軍事ものの本であるから、兵器や軍隊の写真が掲載されているのは、不思議ではないのだが、そこに付けられたキャプションがすごい。海から海岸線に突撃するソ連軍の写真の横に「自衛隊の激しい砲火をかいくぐり、柏崎海岸に上陸、突撃を開始するソ連軍自動車化狙撃師団の第一波」と付けられている。もちろん、ソ連軍自動車化狙撃師団が新潟県の柏崎海岸に上陸したことは一度としてない。おそらくこの写真は、ソ連軍の演習を撮影したもので、それに実際と異なるキャプションを付けたのだろうけれど、写真の使用許諾をどうとったのか、気になる。

史実のソ連軍とは別物

登場するソ連軍も史実のそれより強大である。
沿海州の基地から、本来迎撃戦闘機であるはずのミグ25が、マッハ3の速度で来襲して、積丹半島沖上空の早期警戒機を撃墜したり、弾道ミサイル自衛隊の基地を正確に破壊したりする。

きわめつけは、赤城山の西側山嶺にソ連軍の空挺師団3個が降下し、東京を制圧するというくだりだ。「アントノフ26、22、イリシューン76」などの「五百機をこえる輸送機」で2万4千人の兵力が運ばれてくるというのだ。確かに、一番小型のアントノフ26でも空挺部隊42名を運べるから、できそうな気がするが、この空挺師団は100キロを2時間で進撃するというから、兵員を輸送する車両が少なくとも2000台は必要である。燃料も弾薬も必要だが、どうやって運んだのだろう。戦車や自走砲は「搭載量四十トンのミル12超大型ヘリコプター」で運ばれたとあるのだが、このヘリコプターは試作機が3機作られただけである。
ソ連脅威論者が、ソ連の軍事力を過大評価していたことが分かる。

中国は日本の味方

そもそも、この小説の中で、ソ連が日本を攻撃するのは、中国と戦争中のソ連が、日中貿易をやめない日本を中立義務違反だと非を鳴らしてのことなのだが、中ソ戦争に義勇兵として参加する日本人というのも出てくる。

さらに『ソ連軍日本上陸!』で日本がソ連に占領された後、続編『ミンスク出撃す!』では、日本の亡命政権が、「日本解放軍」を組織して、親ソ政権を打倒するのだが、その亡命政権は中国で樹立され、中国の援助を(後にはアメリカからも)受けるのだ。
「中国人民と日本亡命政権が力を合わせてソ連帝国主義を打倒しようとしている」なんて台詞を読むと何だか隔世の感がある。


この分だと、20年後には、中国と組んでベトナムと戦争するぐらいの、小説が書かれても、驚かない。