それは70年前に出た話だ。

以前の記事で、言及した笠原十九司氏の『南京事件論争史―日本人は史実をどう認識してきたか (平凡社新書)』を読むと、南京事件否定論者の主張の多くが、東京裁判の弁護側の主張として既に出ていたことが分かる。同書から引用すると下記のようになる。

  1. 証人の証言は伝聞によるもので直接現場を目撃したものではない。
  2. 中国軍も退却に際して殺人、略奪、放火、強姦をおこなった。死体の存在、略奪の結果だけを見て、これを日本軍の行為と断定することはできない。
  3. 中国兵は便衣兵(民間服を着た兵士)、便衣隊となって南京安全区ないし南京城内に潜伏していたので、日本軍は便衣兵、便衣隊の掃討、処刑をおこなったので不法殺害でない。
  4. 中国の慈善団体による埋葬資料のなかには、南京戦の戦闘で戦死した兵士の死体が集められて埋葬されたものがふくまれており、虐殺被害者数に入れることはできない。
  5. 日本軍が南京を攻撃する直前の南京市内の住民は20万人前後であったので、城内の住民全部を殺さないと集団虐殺20万人にはならない。20万人虐殺というのは、誇大無稽の数字である。

 いずれも、反論され否定されたものにかかわらず、何度も持ち出されているわけで、南京事件否定論ニセ科学としての特徴をそなえていると言ってさしつかえない。

 2について、弁護人が証人に対し、「支那軍は都市を占領したり、また敗れて都市から逃げるときには、放火・強姦・略奪などをする習慣があることを知っていますか」と質問したとのことだが、これは完全に誘導尋問だろう。「はい」か「いいえ」で答えることができる質問である上、弁護側の主張が質問にのってしまっている。法廷ドラマなら、検察側から「異議あり」の声がかかるところだ。