秦郁彦さん! こんなことを言われちゃっていますよ。

 物を知らないとは恐ろしいことと言うか、無知ゆえに大胆になれるという見本だろう。藤岡信勝氏が『正論』12月号に書いた南京事件について書いた記事が、産経新聞のサイトに転載されていた。
【世界記憶遺産】中国版「アンネの日記」こそが南京大虐殺がなかった証拠だ! 藤岡信勝(拓殖大客員教授)(1/10ページ) - 産経ニュース

1980年代は30万、20万など荒唐無稽な数字が乱舞する「大虐殺派」の天下であったが、ともかく事件があったのだということを広く認知させる役割を果たしたのは、秦郁彦氏の『南京事件』(中公新書、1986年)だった。同書では4万人説が唱えられ、当時は30万人説などと比べて良識的な研究として読まれたが、今では全く時代遅れの本となった。

 なぜなら、同書で公平な第3者としてあつかわれ、事件のイメージをつくるベースとなっている欧米のジャーナリストが、その後の研究で国民党から金を受け取ってプロパガンダ本を書いたエージェントであったことがわかったからだ。秦氏中公新書を絶版としなかったので、同書は未だに影響力をもっている。しかし、研究は進歩するものであることを読者は知っていただきたい。秦氏慰安婦問題では第一人者だが、南京事件の概説書を書くのが早すぎたのかも知れない。

 藤岡氏にとって、秦郁彦氏の『南京事件』は絶版すべき本らしい。藤岡氏も流行(?)のティンパリー国民党エージェント説に乗っているようだ。秦郁彦氏の『南京事件』旧版には、ティンパリーが『戦争とは何か』を出した翌年に「蒋介石政権の情報部に勤務」(情報部と言うのは何ともおどろおどろしい表現だ)とあるし、増補版ではティンパリー国民党エージェント説への傾斜を強めているようだから、ずいぶんな言われようだ。

1990年代の後半から、教科書問題とも関連して、虐殺の存在を前提として仮定しない研究潮流が生まれた。2000年から12年間、日本「南京」学会が旺盛な研究活動を展開し、南京事件が戦時プロパガンダとして仕組まれたものであり、事件そのものが存在しなかったことを立証した。

 そんなのいつ立証されたのだろう。藤岡氏の脳内世界では立証されたのかも知れない。

なお、歴史学界はこれを認めていないという説があるが、近現代史は歴史評価の上で、専門家とシロウトの間の能力的落差はほとんど認められない分野である。歴史の専門学会に所属するギルド集団に歴史解釈についてご判断を仰ぐことにあまり意味がないのである。

 うわっっ! こんな恐ろしいことを言っちゃっているよ。自分は専門家に勝てるという自信家は、ニセ科学の提唱者に多いが、藤岡氏はどうなのだろうか。

 この藤岡氏の記事については、書きたいことがまだあるので、改めて書く。