日本軍の占領地は、刑法第226条の「帝国外」にあたるか、という問題

 従軍慰安婦問題を語るとき、必ず出てくるのが、当時の刑法第226条である。
「帝国外ニ移送スル目的ヲ以テ人ヲ略取又ハ誘拐シタル者ハ、二年以上ノ有期懲役ニ処ス。
帝国外ニ移送スル目的ヲ以テ人ヲ売買シ、又ハ被拐取者若クハ被売者ヲ帝国外ニ移送シタル者亦同ジ。」
 
この条文に出てくる「帝国外」について、慰安婦問題否認論者が、例えば「当時のビルマや中国は、日本の軍事占領下にあった。それは大日本帝国の内だったということだ。従って、人身売買された女性をビルマや中国に移送しても問題がないのだ」などという主張を出してくるのではないか、と予想している。(もう既にそういう主張が出ているのかもしれないが)それにあらかじめ備えて、調べてみた。

 1935年出版の『刑法各論』(大衆法律講座第6巻)で、著者である東京刑事地方裁判所判事の徳岡一男が、この刑法第226条中の「帝国外」について、こう書いている。

ところがここでいう帝国外とは所謂外国のことであるが、わが刑法はドイツ刑法のように外国そのものの意味を明白にした規定がないので種々議論を生ずる余地があるが、やはり大日本帝国の領域に属していない土地を外国と解すべきであろう。だから軍事占領地でもわが領事裁判権が行われている国でも帝国外に当たるのである。(p278 旧字体、旧仮名遣いは、それぞれ新字体、新仮名遣いに改めた)

 日中戦争時の上海の租界であろうと、太平洋戦争時の東南アジアであろうと、「帝国外」ということになるだろう。